第339回 モーツァルティアン・フェライン例会 2014年7月5日
 
 

 事務局レター【第214号】/2014年7月

 【編集者】澤田義博/山崎博康/川口ひろ子/笠島三枝子/大野康夫/倉島 収 mozartian_449*yahoo.co.jp  (スパムメールが増えてきましたのでリンクを外しました。お手数ですが*を@に替えて送信願います) 

 

●7月例会(第339回)のお知らせ 

演題:モーツァルトのオペラにおけるリアリズム

  お話:伊藤 綾氏

 日時:2014年7月5日(土)午後2時(午後1時30分開場)

 会場:お茶の水「クリスチャンセンター」(JR「お茶の水」下車・徒歩3分) 

 例会費:¥2500(会員・一般共)


――――― 伊藤 綾氏からのメッセージ

略歴
 山形大学教育学研究科修士課程修了(教育修士)
ドイツ、カールスルーエ大学人文学研究科博士課程修了(哲学博士)
 専門研究分野は声楽作品における音楽と言葉の関係、拍節法。
 現在は、横浜市立大学、明治学院大学、慶應義塾大学、東京工業大学、埼玉大学において 非常勤講師として勤務。 

オペラは1600年の成立当初から、悲劇であれ喜劇であれ善悪が明確に書き分けられ、道徳的な内容 であることが通例でした。
 18世紀に入るとそれは啓蒙思想とあいまって、より理想化された人間や社会が描かれるようになりま す。
しかしそのような時代にありながら、モーツァルトのオペラの多くは、人間および社会の多面性を描き、 単純に善悪に分けることができない世の中の現実を暗示しています。
 本講演では、その「曖昧さ」をモーツァルトがいかに表現したのかを、彼のオペラ作品における言葉と 音楽の関係から分析し、そこからロマン主義の萌芽についても考察してみたいと思います。 

 


 例会後は恒例の懇親会へのご参加をお待ちしております。
会場:「デリ・フランス」お茶の水店/03(5283)3051

 

 

●今後の例会のご案内(会場記載のないものはお茶の水クリスチャンセンターです)

 8月お休み
9月20日(土)森垣桂一氏
 10月4日(土)上野優子氏 (銀座十字屋ホール)
 11月西川尚生氏、12月磯山雅氏 

 

 


●お知らせ 

会員へのお知らせ

 ♪今月は例会の前に恒例の会員総会を開催いたします。
  時間:12:30~13:30。
  内容は
  1.会計報告
   2.2013年度活動報告
   3.2014年度、15年度の活動予定
   4.新役員のご承認
   5.その他

 「7月例会開始前に会員総会を開催いたしますので、奮ってご参加下さい。
 例年参加会員が少ないので、今年は多くの会員の方のご出席をお願い致します。
 会長 澤田 義博」 

 

 

 
●6月例会報告( 第338回 /6月14日)

 演題:<モーツァルトが愛したピアノ  シュタインとヴァルター聴き比べ>
ピアノとお話:久元祐子氏 

  ことしのレクチャー・コンサートは立川市のセレモアコンサートホール武蔵野で行われました。
 今回はモーツァルトが活躍した時代のピアノフォルテ2台による生演奏が味わえる極めてユニークな 企画です。

 

 使用楽器はモーツァルトの父レオポルトの故郷アウグスブルクのヨハン・アンドレアス・シュタインが 制作したモデル(1788年)とウィーンのアントン・ヴァルターが制作したモデル(1795年)。
いずれも忠実に復元したもので、18世紀後半の世界にタイムスリップし、当時の演奏会に立ち会ったか のような貴重な機会となりました。
 案内にある先生のコメントによると、当時は鍵盤楽器が大きく変わろうとしていた時期。1777年に、 シュタインの工房を訪ねて最先端のピアノフォルテの性能に驚愕したモーツァルトですが、ウィーンに 移り住んで自ら購入したのはヴァルターのピアノフォルテでした。
 実際に彼が演奏に使用した楽器は1781年頃に制作されたと考えられているそうです。今回の2台は ほぼそうした時期に重なります。

 

サロン風の会場だったこともあり、モーツァルトの奏でたであろう繊細にして優美かつ典雅な響きを 間近に堪能することができ、至福の時間でした。
なによりも、モーツァルトの魂が乗り移ったような先生の演奏のおかげであることは言うまでもありま せん。
 楽器、楽曲にまつわるエピソード、説明の数々も、いつものさりげないユーモアを交えた先生のトークで、会場は何度も笑いに包まれました。

  ピアノフォルテは鍵盤の深さが現代のピアノの半分とのこと。それゆえ、タッチも微妙に異なります。 それらを軽やかに弾きこなす先生は極めて稀有な演奏家ではないでしょうか。
 18世紀と21世紀とをつなぎ、当時の豊かな響きを蘇生させて今の時代に送り届ける重要な役割も 果たしていらっしゃることを感じました。
シュタインは40年以上前の制作。ヴァルターは2年ほど前とのこと。歳月とともに熟成を重ねると、 響きも深みを増していきそうです。そうした魅力を追求する先生のますますのご活躍を願ってやみま せん。 

 鑑賞した作品は以下の通りです。
▽モーツァルト 幻想曲(久元祐子補筆)ニ短調 K397
▽クレメンティ ソナタ op47-2 第1楽章
▽モーツァルト ボーマルシェの「セヴィリアの理髪師」のロマンス、私はランドールの主題による
変奏曲 変ホ長調 K354
▽モーツァルト ロンド ニ長調 K485 (解説)
▽モーツァルト ピアノ・ソナタ K331 イ長調 


  プログラム前半の3曲はシュタインのピアノフォルテ、後半はヴァルターのピアノフォルテで行われ、 最後のピアノ・ソナタ(トルコ行進曲付き)は第3楽章をヴァルターのあと、シュタインでも弾いてくださり、 まさに聴き比べの饗宴でフィナーレを飾りました。

 各曲に関する先生のお話の概要は以下の通り。

モーツァルトは21歳の時にシュタインの工房で接したピアノフォルテに大感激していかに優れているが 父親に長い手紙(1777年10月17日付)を送っている。
 「強く叩いたときはたとえ指を残しておこうと上げようと、ぼくが鳴らした音は一瞬にして消えてくれ ます。どんなふうに鍵盤に触れようと音は常に一様です」と。とりわけ、エスケープメントに着目した。
これはタッチをして、それを逃してくれる、次のタッチに行けるようにする機能。ピアノの原型は1770年 頃にイタリアのクリストーフォリが発明したといわれて、この楽器はグラーヴェチェンバロ・コル・ピアノ・ エ・フォルテ(gravecembalo col piano e forte)、強音、弱音の出る大型のチェンバロと呼ば れた。
これを改良したのがドイツのジルバーマン。その甥のところで修業したのがシュタインだった。 

 幻想曲 ニ短調 K397 自筆譜が残っていない。何の目的で誰のためにつくったのか資料も ない。 初版譜は中途半端に終わった形のままだったため、出版社がモーツァルトの死後、最後の10小節を 勝手に付けて出版した。お馴染みの補筆部分はモーツァルトにはあずかり知らぬこと。今日はためし に「久元祐子補筆」ということで演奏した。たのしい終わり方ではなくて、もうひとつの有名なハ短調の ファンタジー、K475の終わり方を使って終わらせた。珍しい演奏。 

クレメンティ ソナタop47-2 第1楽章  モーツァルトは自分の楽器を持たない音楽家だった。 その彼を助けてくれたのが下宿先のウェーバー家にあるチェンバロ、そしてトゥーン伯爵夫人の 持っているシュタインのピアノフォルテを借りて、演奏会に出ていた。
 1781年のクリスマス・イヴに、ヨーゼフ2世が彼を宮廷に呼び弾き比べをさせた。
 相手はイタリアの人気作曲家クレメンティ。モーツァルトにとって非常に脅威だったかもしれないが、 この腕比べはモーツァルトの圧勝だったといわれている。その理由は、クレメンティが当時チェンバロ を主に使い、ピアノフォルテにはまだ慣れていなかったのに対し、モーツァルトは普段から使い慣れて いるので、最初から分があったとも言える。
モーツァルトはクレメンティを「趣味も感情のかけらもありません。単なる…いかさま師です」と評したが、 これは言い過ぎでは?冒頭のメロディーは「魔笛」の序曲にちゃっかり使っている。自分の地位を 脅かすかもしれない才覚を持った作曲家として評価していたのかもしれない。
 今ではこの作品は「魔笛」ソナタと言われている。

ボーマルシェの「セヴィリアの理髪師」のロマンス、私はランドールの主題による変奏曲 変ホ長調  K354 人生で最初に挫折を味わったパリ滞在だったが、いくつかの名曲のほか、当時流行っていた メロディーを基に変奏曲を作り、味付け、盛り付けの妙で楽しませた。
 弾き比べ対決ではこの曲を使ったといわれる。12の変奏は3という数字にこだわっていたこともあって、 4つずつきれいに分かれる、それぞれにワンセクションの4曲目で一つの山場を迎える。
 4曲目では交差をする。当時は5オクターブしかないため、難しいテクニックが要る。光と影を対比させ、 華やかなもののあとに短調で陰りをつくる。

 

ヴァルターのピアノフォルテを復元したのはウルバーノ・ペトロゼッリというイタリア人の制作者。美しい 楽器をつくることで知られている、側板は象嵌でできている。現在はあまりいい木材はないが、父親の 代からストックしている良い材料を使っている。ワルターはシュタインに比べすこし楽器が頑丈になって いて、大きな音が出る。一番大きな特徴はバックチェック機能が付いていること。ハンマーが打ち上げ たあと2度打ちになる可能性がシュタインにはあるが、それを防ぐ機能がヴァルターにある。そのため に非常になめらかな動きが正確に出せる。楽器はこちらに来て2年。楽器としてはこれから鳴ってくる と思う。 

ロンド ニ長調 K485 モーツァルトは年を追うごとにピアノフォルテへの熟練度を増し、細やかな ニュアンスも出せるようになっていく。よく「移ろいの美学」と言われるが、ロンドは一つのメロディーが 何回もまわってくる、少しずつ色を変えながら。 最初はニ長調K485。祝祭的な雰囲気の曲を書くときにニ長調を使う。それがロ短調になり、同じ リズムを使っていながら光の部分が影になる。違う調が出てくることで人の心に違う印象を与える、 心を動かすずば抜けた才覚をモーツァルトは持っていた。 

ピアノ・ソナタ イ長調 K331 ウィーンで最初に書いたオペラはトルコを舞台にした「後宮からの 誘拐」。これはそのピアノ・バージョン。第3楽章はアレグレット(やや快速に)という表示をしている。 その理由は今もって分からないが、比較的易しいソナタとして愛好家の方にも聴いていただけます ようにという願いを込めて楽譜を出版したという説も。あるいは細かなニュアンスを出してほしいと いう意図か。ソナタの第1楽章が変奏曲という形式はほんとうに画期的。
 第1楽章はアンダンテ・グラジオーゾ。アンダンテにどういう言葉が付くかによって雰囲気が変わる。 これは「優雅に」。最後にトルコマーチで勇ましくなる曲の出だしとして優雅に、勇ましいのとは対照的 な雰囲気で始めてほしいということだろう。 

シュタインは若いモーツァルトが弾けたような感じ。ヴァルターのほうは晩年の円熟した世界を表現 するのに合わせた楽器と感じる。(文責 山崎博康) 

 

 

 


第338回 モーツァルティアン・フェライン例会 2014年6月14日
 
 

 事務局レター【第213号】/2014年6月

 【編集者】澤田義博/川口ひろ子/笠島三枝子/大野康夫/倉島 収 mozartian_449*yahoo.co.jp  (スパムメールが増えてきましたのでリンクを外しました。お手数ですが*を@に替えて送信願います) 

 

●6月例会(第338回)のお知らせ 

演題:久元祐子レクチャー・コンサート
「モーツァルトが愛したピアノ シュタインとヴァルター聴き比べ」
 【ピアノフォルテとお話 久元祐子氏】

 使用楽器 
シュタイン・モデル(1788年)ピアノフォルテ
 ヴァルター・モデル(1795年)ピアノフォルテ

日時:2014年6月14日(土)午後3時00分開演(午後2時30分開場)
←開始時間に注意!


会場:セレモアコンサートホール武蔵野

※立川駅よりモノレール、またはタクシーが便利です。同乗してタクシーを利用する場合は、立川駅東改札口前(2F)に2時30分までにお集まり下さい。2時15分頃から、集まり次第次々に出発する予定です。

 例会費:¥3000(会員・一般共) 自由席
 【当日券あり、会員以外の方大歓迎】


――――― 久元祐子氏からのメッセージ

 モーツァルトの生きた18世紀後半は鍵盤楽器が大きく変わろうとしていた時期でした。子供の頃から親しんでいたクラヴィコード、チェンバロに加え、青年モーツァルトは新しい楽器であるピアノフォルテに親しみ、習熟していきました。
  1777年、マンハイムに行く直前、父レオポルトの故郷アウグスブルクに立ち寄り、ヨハン・アンドレアス・シュタインの工房を訪ねてその感激を手紙に残しています。
  「K284のデュルニッツ・ソナタを弾くと、比較にならないほどよく響いた」と言います。そして、1781年、25歳のモーツァルトは大司教と決裂しウイーンにとどまりますが、その年のクリスマス・イブに皇帝ヨーゼフ2世の前でクレメンティと腕比べをしたときも、トゥーン伯爵夫人所有のシュタイン製作のピアノフォルテでした。ウィーンで独立した音楽家として歩み始めたモーツァルトが1783年頃、購入したピアノフォルテは、けっきょくシュタインではなく、ウィーンのクラヴィーア製作家、アントン・ヴァルターが制作したピアノフォルテでした。
  このヴァルターのピアノフォルテは、1781年頃制作された楽器と考えられており、コンサートの度に、家から持ち出されたそうです。K466のピアノ協奏曲もこのピアノフォルテで行っています。
  そのシュタインやヴァルターは、どのような楽器だったかのか、実際の音をまじかにお聴きいただきながら、モーツァルトの愛した響きを感じていただけましたら幸いです。

プログラム

★モーツァルト幻想曲(久元祐子補筆)二短調K397
★ロンド ニ長調 K485
★クレメンティ ソナタ op47-2 第一楽章
★モーツァルト:ポールマルシェの「セヴィリアの理髪師」のロマンス、私はランドールの主題による変奏曲 変ホ長調 K354
★モーツァルト:ピアノ・ソナタ K331イ長調 

 


 例会後は恒例の懇親会へのご参加をお待ちしております。
 会場:「立川北口 伊勢丹裏 イタリアンレストラン ウエストエンド 042(527)8752」

 


 
●今後の例会のご案内(会場記載のないものはお茶の水クリスチャンセンターです)

  7月5日(土)  伊藤綾氏
  8月 お休み
 9月20日(土)  森垣桂一氏
  10月4日(土)  上野優子氏(銀座十字屋ホール)
11月 西川尚生氏   12月 磯山雅氏    

 

 


●5月例会の報告(第337回/5月10日)

 演題:フェラインでの「イドメネオ」-ウイーン版への奨め-の発表を終えて- 
お話:倉島 収 副会長(K.449)

  今回のこのテーマに関しては、4月に日本モーツァルト協会のオペラ・サークルで、一度講演済みであったので、季刊掲載用の形で資料も出来ており(資料-1)、突然の講師依頼を気軽に引き受けたのであるが、講演の相手が変わると、このオペラの成立事情や「あらすじ」などの追加資料(資料-2)を作成する必要に気がついて、この資料作成に追われて大慌てであった。

 初めに早口で、これらのこのオペラの基礎的部分の資料説明をしてから、8映像の簡単な説明を加え、これまでは「ミュンヘン初演版」が優勢であったことを述べた。それから、本題のウイーン版の追加アリアを聞いて頂いたり、レヴァイン・ポネル盤の決定的場面における問題点などを映像で見て頂いたりしてから、休憩後に、時間の許す限りキュヴィリエ劇場のケント・ナガノ盤を抜粋して見て頂いた。終わりに、自分なりのこのオペラに対する今後の期待について述べたさせて頂いた。

 

 

  ウイーン追加曲の2つのアリア、K.490のテノールのロンドとK.489のソプラノとテノールの二重唱は、エストマン指揮ドロットニングホルム歌劇場で歌った本格的なテノールであるキューブラーが歌った古楽器の映像(1991)で聴いて貰った。ハンペ演出のこのウイーン版は、小劇場のセリア的雰囲気がとても良いのであるが、エストマンのテンポが気まぐれで、早すぎる面があって好みが分かれるところである。ヴァイオリンのオブリガート付きのK.490は、あのピアノのオブリガートの名曲K.505と「同工異曲」の対をなすモーツァルトの傑作中の傑作であり、優れた名品として改めて評価して欲しいと思われる。

  また、第三幕の決定的な場面である第9場と第10場の「声」の場面では、初めに「ミュンヘン初演版」のレヴァイン・ポネル盤(1982)における問題点として第10場のイリアのレチタティーボの部分が省略されている例を見て頂いてから、同じ場面をウイーン版であるハイテンク・ナン盤(1983)で見て頂いた。この盤ではイリアのイヴォンヌ・ケニーがとても味のある演技をしており、第10場では雄弁になってイダマンテの身代わりに、ネプチューンへの生贄として身を投ずるシーンが素晴らしく、「愛の勝利だ」と言わせる「天の声」を導き出す「父子の愛」に加えて「男女の愛」の重要性を物語っていた。この決定的な場面では、男女の愛を自然に訴えるウイーン版の方が遙かに優れていると思われる。

  休憩後には、ウイーン版では最も新しいケント・ナガノ盤(2008)で、まず改装なった新劇場を見るため序曲から聴いて頂いたが、序曲の間中、舞台では合唱団と将軍イドメネオのトロイ戦争での勝利、続いてネプチューンによるイドメネオが海難に遭う場面が示されていた。この映像は、「初演劇場でのライブ収録」と言うことで、何か新しいモダンな面を演出せざるを得なかったようであるが、モダンな衣裳の合唱団がやり過ぎの面があること、折角のウイーン版であるのにあのK.490が省略されていたり、末尾の折角加えたバレエの物足りなさなど、私には音楽面では良いのであるが、演出面で好きになれない面があった。しかし、イリアのユリアーナ・バンスやエレットラのアネッテ・ダッシュの好演などがあって、第三幕での声の場面などがウイーン版らしく盛り上がりを見せる場面を見て頂いた。

  そして最後に自分の望ましい「イドメネオ」像を一言、語らせて頂いたが、それはウイーン版でイダマンテをテノールで歌わせ、8つの映像の良いとこ取りをした、オペラ・セリアの枠を遙かに超えるフランス風のグランド・オペラの先駆けのイメージであった。またさらに、新全集の付録にある映像ではまだ見られないイダマンテのアリア(27a)、パバロッテイしか歌っていない削除アリア(30a)など作曲した全てのアリアを加える一方、往復書簡で彼が長過ぎると指摘したレチタティーボの部分を大幅にカットして、題名もこの際「イリアとイダマンテ」と改名した新しい「新ミュンヘン版」とも言うべき改変などへの可能性を述べさせて頂いた。ウイーン版と同様に、アマチュアの演奏会形式でも実現できないかと思っているが、新全集を書き替える必要があるので、これは夢物語で無理であろう。しかし、これこそモーツァルトがこのオペラで本当にやりたかったことであろうと考えられる。

 (以上)(2014/05/12)
 (文責;倉島 収) 

 

 

 

 

●例会・懇親会 写真コーナー


 今回の懇親会場は、いつもの「デリ・フランス」お茶の水店に戻り、趣旨に賛同する有志一同で、講師の倉島収副会長を中心に飲み会に早変わり。ビールで乾杯後、楽しく質疑・応答、懇親が行われた。懇親会においては、皆さん元気いっぱい、話題も豊富で、楽しい賑やかなひとときを過ごすことが出来た。   

 

  

第337回 モーツァルティアン・フェライン例会 2014年5月10日
 
 

 事務局レター【第212号】/2014年5月

 【編集者】澤田義博/笠島三枝子/大野康夫/倉島 収 mozartian_449*yahoo.co.jp  (スパムメールが増えてきましたのでリンクを外しました。お手数ですが*を@に替えて送信願います) 

 

●5月例会(第337回)のお知らせ 

演題:オペラ・セリア「イドメネオ」の8映像の総括-ウイーン版への奨め-

   お話:倉島 収 副会長(K449)

 日時:2014年5月10日(土)午後2時(午後1時30分開場)

 会場:お茶の水「クリスチャンセンター」(JR「お茶の水」下車・徒歩3分) 

 例会費:¥1500(会員・一般共)


――――― 倉島副会長からのメッセージ

 連休直前の4月26日に、5月10日のフェライン5月例会の講師を依頼された。突然の依頼で戸惑ったのであるが、幸い、このオペラの8映像の自分なりの総括が終わったところなので、その概要とこのオペラに対する今後の期待について述べたいと思う。

  オペラ「イドメネオ」には、今のところ新旧併せて8映像が手元に集まっているが、いずれも水準以上の良いものが多いのであるが、これだという突出したものがなく、セカンド・チョイスのものがいくつかあるという報告にならざるを得ない。昨年、日本モーツァルト協会でこのオペラを解説した田辺先生は、レヴァイン・ポネルのメトロポリタン歌劇場の映像(1982)を利用しておられた。この映像は、パバロッテイ・ベーレンス・コトルバス・シュターデの豪華キャストを使った大劇場型の迫力ある舞台による優れた映像として捉えられてきたが、その後現れた新しい映像と比較すると、物足りない面も露出してきている。今回は、これら8映像を総括した結果の概要を述べるとともに、8映像を見較べて、自分なりの優れた「イドメネオ」像をイメージできたので、時間の許す限りそれをご紹介できれば良いと考えている。

  それは第一に、ウイーン版への奨めであり、カストラートがいないウイーンにおいてモーツァルトが自らこのオペラの再演を試みたウイーン版、すなわちイダマンテがテノールであった方が舞台が自然に充実し、加えて二つの追加曲もとても魅力がある。従って、まずテノールのアリアK490およびテノールとソプラノの二重唱K489を、是非、取り上げて聴いてみたいと思う。第二に「愛の勝利だ」という神託の声を呼び起こした第三幕の決定的場面において、親子の愛とさらに若い男女の愛の両方を自然な形で再現できるウイーン版の方が、天の声に対し説得力があるということを示したいと考えており、この場面の幾つかの映像の比較を試みたいと思う。第三に、ミュンヘンの改装なったキュヴィリエ劇場で最も新しいケント・ナガノ指揮のウイーン版の映像の第三幕を通して見ていただき、この映像の優れた点と、問題点とを指摘し、セカンド・ベストとせざるを得ない理由をまとめてみたいと考えている。

  そして最後に自分の理想とする「イドメネオ」像は、ウイーン版でイダマンテをテノールで歌わせ、二つの追加曲を生かしたものとし、中舞台でアンサンブルの良い伝統的な演出で、伴奏付きレチタティーボや数多い合唱の強化・充実、そして「天の声」の決定的場面の演出効果の重視を図り、中間や最後のバレエ音楽の効果的活用などを図ったものが良いと考えてみた。これは、ある意味では、8つの映像の良いとこ取りをした、オペラ・セリアの枠を遙かに超えるフランス風のグランド・オペラのイメージなのであるが、今までのところまだ満足する映像が現れていないので、今後に期待したいと考えている。 

 


 例会後は恒例の懇親会へのご参加をお待ちしております。 会場:「デリ・フランス」お茶の水店/03(5283)3051

 

 

●今後の例会のご案内(会場記載のないものはお茶の水クリスチャンセンターです)

  6月14日(土)    久元祐子氏(セレモアコンサートホール武蔵野) 

 

 


●お知らせ 

会員へのお知らせ

1.今月ご講演頂く予定だった山田先生は講演日決定後、連絡が取れなくなり、ギ リギリまで、お待ちしましたが、キャンセルせざるを得なくなり、急遽倉島副会長に ピンチ・ヒッターをお願いすることになりました。会員の皆様のご賢察とご了承をお 願い致します。倉島副会長にはご快諾頂き、大変感謝しています。(澤田)

2.「澤田会長の著書『パリのモーツァルト』に関連して、澤田会長の記事が日経新聞文化欄トップ記事となることが決まりました。記事は5月中旬以降、遅くとも5月末までには掲載される予定です。日にちが決まりましたら少なくともメール会員の方にはご連絡致します。」 

 

 

 
●4月例会の報告(第336回/4月12日)

 演題:ペーター・フォン・ヴィンターの「魔笛・第二部」について、
-「迷宮-または自然の力との闘い/二幕からなる英雄的・喜劇的オペラ」- 
お話:田辺秀樹氏(一橋大学名誉教授) 

  モーツァルトの大ヒット作品「魔笛」の続編については、極めて興味深いものがあるが、2012年夏のザルツブルク音楽祭で、ペーター・フォン・ヴィンター作曲の『迷宮-魔笛第2部-』が上演された。これは、「魔笛」の台本作者シカネーダーの没後200年記念として上演されたもので、幸い公演を収録した日本語字幕付のDVDが発売されている。
  先生は残念ながら生の舞台は観られなかったようであるが、台本は『魔笛』と同じシカネーダー、作曲は生前の モーツァルトとも因縁浅からぬものがある当時の人気作曲家ペーター・フォン・ヴィンターで、モーツァルトの『魔笛』の7年後の1798年6月12日に初演され、他のドイツ語圏の劇場でも上演されるなど、かなりの成功を収めていたものであった。台本と音楽の両面でモーツァルトの『魔笛』といろいろ共通点や相違点があり、たいへん興味深い作品なので、これをお話頂くとともに、解説しながらDVDの映像で面白いさわりの部分をご紹介いただいた。

 

 

  モーツァルトの親友であったシカネーダー(1751~1812)は、5歳年上で、「魔笛」のようなドイツ語オペラ、歌と音楽入りの演劇を得意とする劇場人であり、舞台上の面白い見せ場やスペクタクルなシーンの演出を得意とする座長でもあった。また、彼は客を喜ばせる得意な場面を自分の劇場で実現するため、自らも都合の良い脚本を書き、自らも出演していた。「魔笛」のパパゲーノ役は、彼の最高の当たり役であり、この魔笛続編となる「迷宮-魔笛・第二部」でも、台本は彼の手により作成され、また当然のことながら、大活躍するパパゲーノの主役を演じていた。このような理由のため、彼のテキストを、近代的・文学的価値観や美学で、評価してはいけないとされている。

  一方の作曲家ペーター・フォン・ヴィンター(1754~1825)は、モーツァルトよりも2歳年上のマンハイム出身の音楽家である。10歳の頃からプファルツ・バイエルン宮廷のオーケストラでヴァイオリン奏者、コントラバス奏者、作曲家として活躍し、奨学金を与えられてウイーンで学び、サリエリに師事してオペラを学び、作曲家として名声を浴びるとともに、バイエルン宮廷楽長として活躍した人物とされる。
  マンハイム楽団に若くして所属していたため、モーツァルトは知ってはいたが、親しい間柄ではなかったようである。父のレオポルドにモーツァルトの評判を提供したことがあって、それを知ったモーツァルトがヴィンターを辛辣に評価した手紙が残されている。

  ヴィンター作曲の「魔笛・第二部」は、1798年6月12日、ウイーンのヴィーデン劇場で初演されており、その後ウイーンで67回も上演された、ほどほどに成功を収めた作品とされる。1799年から1803年にかけては、モーツァルトの「魔笛」とこの「第二部」とが二晩連続して上演した記録があり、シカネーダ劇場にとっては客を呼ぶ重要な作品だった。しかし、ヴィンターの他の代表的なオペラに比較して、シカネーダの場当たり的な一貫性を欠いたリブレットのせいか、やや生彩を欠いているとも言われる。

  第二部の登場人物は、パミーナ・タミーノ、ザラストロ・夜の女王の主役のほか、パパゲーノ・パパゲーナには、老パパゲーノ・老パパゲーナと大勢の子供たちも登場し、三人の侍女、モノスタトス、三人の少年(精霊)たちも健在であった。ザラストロ陣営と夜の女王との対立の構図は変わりないが、第二部では夜の女王に組するテイーフォイス(パフォス国の王)がおり、結婚したパミーナ・タミーノやパパゲーノ・パパゲーナに試練が課されて、それを邪魔したり助けたりする脇役の活躍があって、物語の最後にはタミーノがテイーフォイスとの決闘に勝って、パミーナが助けられ、ザラストロ軍団が勝利するお話であり、「戦争」や「決闘」など各陣営の合唱団も賑やかなストーリィのオペラであった。

  先生からご紹介いただいたDVDは、日本語字幕があり、ザルツブルグ音楽祭においてレジデンツホーフ内に仮設的に設けられた舞台で上演されたものであった。そのためかシカネーダが得意とした機械仕掛けなどによるスペクタクルな面白さは余り見られなかったが、「魔笛」と共通な楽しい登場人物たちが賑やかな衣裳を着けて沢山登場していた。しかし、どうやら音楽面とテキスト面でかなり短縮されたヴァージョンのようであった。

 

  主役のパミーナは、かってチューリッヒOPのDVD(2000)で、歌姫としてこの役を歌っていたマリン・ハルテリウスが大活躍していたが、タミーノ役は、これもガーデイナーによる古楽器のLD(1995) でタミーノを歌ったミハエル・シャーデあった。しかし、歌は良いものの少し太りすぎで、視覚的には年を取りすぎたタミーノで、逆に笑いを呼ぶ道化的なタミーノを演じていた。夜の女王は三人の侍女たちとともにパミーナを誘拐しようとして大活躍していたが、コロラチューラの冴えたアリアは見られず残念であったし、一方のザラストロは、フリーメーソン的な要素が大きく後退しており、そのせいか夜の女王に対して存在感が薄いように思われた。一方、パパゲーノとそのファミリーがいろいろな場面で姿を現して笑いを呼んでいたが、パパゲーノ自身も素敵なムーア美人による誘惑の試練を乗り越えて、パパゲーナと仲直りしたり、グロッケンシュピールを担いで、パミーナを探し出したりして大活躍し、続編としての楽しさを醸し出していた。このオペラは一貫した筋よりもその場面・場面を楽しむオペラのようであり、ほんの触りだけしか見られなかったが、明るく面白そうな運びをしており、続編に関心のある方には、DVDをお試し頂きたいと思われる。

  終わりに田辺先生は、いつもの例会のように「酒席ピアノ」としての腕を奮って下さった。曲目は春のウイーンに因んだ曲で、「プラータ公園の春」、「ウイーンへの挨拶」、「またグリンツインに行きたい」など楽しい曲が多く、大喝采であった。

 (文責;倉島 収) 

 

 

 

 


●例会・懇親会 写真コーナー


 今回の懇親会場は、いつもの「デリ・フランス」お茶の水店に戻り、趣旨に賛同する有志一同で、講師の田辺秀樹先生を中心に飲み会に早変わり。ビールで乾杯後、楽しく質疑・応答、懇親が行われた。懇親会においては、皆さん元気いっぱい、話題も豊富で、楽しい賑やかなひとときを過ごすことが出来た。

     なお、写真を削除して欲しい方がおられたら、直ぐに担当宛てメールして頂くか、電話でもよいので、いつでも連絡して欲しいと思います。削除するのは実に簡単なので、作業は直ぐ実施します。

  なお、写真が欲しい方は、原版はHP担当の倉島が全て保管していますので、例えば、懇親会4列の右側の写真の場合は、例えば、懇上から4・右と言うように写真を特定して、下記にメールしていただければ、次回例会までにお届けするようにしたします。ただし、恐縮ですが、Lサイズで30円/枚のご負担をお願い致します。

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お問い合わせ:ホームページ担当;倉島 収: メールはここから

 

 

 

 

 

 

 

第336回 モーツァルティアン・フェライン例会 2014年4月12日
 
 

 事務局レター【第211号】/2014年4月

 【編集者】澤田義博/石津勝男/笠島三枝子/大野康夫/倉島 収 mozartian_449*yahoo.co.jp  (スパムメールが増えてきましたのでリンクを外しました。お手数ですが*を@に替えて送信願います) 

 

●4月例会(第336回)のお知らせ 

演題:『魔笛・第2部』を観る  お話:田辺秀樹氏

 日時:2014年4月12日(土)午後2時(午後1時30分開場)

 会場:お茶の水「クリスチャンセンター」(JR「お茶の水」下車・徒歩3分) 

 例会費:¥3000(会員・一般共)


――――― 田辺先生からのメッセージ

 2012年夏のザルツブルク音楽祭で、ペーター・フォン・ヴィンター作曲の『迷宮--魔笛第2部』が上演されました。
 私は残念ながら生の舞台は観られなかったのですが、幸い公演を収録したDVDが発売されました(日本語字幕付)。台本は『魔笛』と同じシカネーダー、作曲は生前の モーツァルトとも因縁浅からぬものがある当時の人気作曲家ペーター・フォン・ヴィンターで、モーツァルトの『魔笛』の7年後の1798年6月12日に初演され、他のドイツ語圏の劇場でも上演されるなど、かなりの成功を収めました。台本と音楽の両面でモーツァルトの『魔笛』といろいろ共通点や相違点があり、たいへん興味深い作品です。これを解説しながら、DVDの映像でみなさんにご紹介したいと思います。
お話のあとは、 皆さんのお許しがあれば、例によって今回も<酒席ピアノ>でウィーンの酒場の歌やオペレッタの歌など弾かせていただくつもりです。 

 


 例会後は恒例の懇親会へのご参加をお待ちしております。 会場:「デリ・フランス」お茶の水店/03(5283)3051

 

 

●今後の例会のご案内(会場記載のないものはお茶の水クリスチャンセンターです)

  5月10日(土)    山田高誌氏

  6月14日(土)    久元祐子氏(セレモアコンサートホール武蔵野) 

 

 


●お知らせ 

会員へのお知らせ

3月18日(火)、フェラインが大変お世話になりました高橋英郎氏(モーツァルト研究家)がご逝去されました。心よりご冥福を祈り、謹んでお知らせいたします。

 

 

 
●3月例会の報告(第335回/3月29日)

 演題: モーツァルトからベートーヴェンへ――「精神」は受け継がれたか」
お話:樋口隆一氏 

  1792年10月、若きベートーヴェンがウィーンに旅立とうとするとき、ワルトシュタイン伯爵が「ハイドンの手からモーツァルトの精神を受け取るように」と記念帳に記入したことは良く知られている。すでにベートーヴェンは1787年、モーツァルトに師事する目的でウィーンに赴いたことがあった。しかし急遽ボンに戻らざるを得なくなったのは、最愛の母が重体との報せが届いたからであった。
  その後、モーツァルトは1791年に世を去ったが、ベートーヴェンはハイドンに師事する幸運を得て1792年11月にウィーンに赴き、生涯その地に留まった。ウィーンでのベートーヴェンはハイドンに師事したが、この老大家に対する態度は、決して従順なものではなかった。
  ベートーヴェンはウィーンでの最初の出版にピアノ三重奏曲集を選び、ハイドンも無名な弟子の助けになればと、その表紙に「ハイドンの弟子」と書くことを勧めたが、怒ったベートーヴェンはそのアドヴァイスに従わなかったという。
  恩師ハイドンに対するベートーヴェンの複雑な心理は、弦楽四重奏曲集作品18の作曲にも見て取れる。いうまでもなく弦楽四重奏というジャンルこそは、ハイドンが確立し、モーツァルトもまた「ハイドン四重奏曲集」を献呈してハイドンの功績を讃えたものであった。こうしたジャンルに進出することは、現実の師のハイドン、心の師ともいえるモーツァルトの聖域に足を踏み入れることを意味しており、若きベートーヴェンにとって、6曲からなる弦楽四重奏曲集作品18の作曲は大きな決断と決心を必要とすることであったに違いない。
  ベートーヴェンが弦楽四重奏曲の作曲を始めるのは、ようやく1799年になってのことであるが、その前に、ふたりの先輩の作品をパート譜から総譜に写すことによって弦楽四重奏曲の作曲を学んでいる。1794年には、ハイドンが1772年に作曲し、74年に出版した弦楽四重奏曲集「太陽」の第1番変ホ長調の写譜をしているし、1798年夏になると、モーツァルトがハイドンに捧げた「ハイドン・セット」から、《ト長調》K387の全楽章と、《イ長調》K464の第3・第4楽章を写譜したあと、いよいよ自作の作曲に取りかかるのである。
  特にモーツァルトの弦楽四重奏曲イ長調K464と、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲イ長調作品18-5を比較してみると、興味深い一致が目に付く。これら2作品の比較を中心に、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンにおける弦楽四重奏曲というジャンルを媒介とした「精神」の伝達について考えてみたい。 

 

①ハイドン:弦楽四重奏曲集「太陽」作品20-1変ホ長調
Allegro moderato 変ホ長調4/4 ソナタ形式/ Menuetto. Allegretto 変ホ長調3/4/ Affecuoso e sostenuto 変イ長調 3/8ソナタ形式/ Finale. Presto 2/4 ソナタ形式. 
ハーゲン四重奏団 

  「1770年代に及んでようやく結晶を見た作曲上の古典様式への里程標」(クライヴ・ブラウン)、「ハイドンの弦楽四重奏曲の発展史は、作品20をもってゴールに達した」(サー・ドナルド・トーヴェイ)エステルハージ侯爵宮廷楽団のヴァイオリン奏者トマシーニの妙技。第1楽章はソナタ形式だが、様々な楽想が紡ぎ出されて形式は不明瞭。
  第2主題は変ロ長調の分散和音で始まる楽想だろう。展開部/再現部では、様々な楽想が自由に組み合わされる。メヌエットでは、トリオの後半にメヌエット主題がヘ短調で示される。第3楽章は変イ長調の平和な音楽。4声体の豊かな響き、変ホ長調の部分が第2主題部と言えよう。
  あまり変化のない展開部を経て、再現部では第2主題が変イ長調で示されて、調性が確立される。第4楽章では上昇する変ロ長調の楽想が第2主題。
☆ハイドン、モーツァルト、初期のベートーヴェンの時代には、こんにち我々が教わるようないわゆる「ソナタ形式」は定型化されていなかった。バロックの2部形式の発展型として、自由に創作していた。
☆いわゆる「ソナタ形式」が定型化されるのは、ベルリン大学でヘーゲルの同僚だったアドルフ・ベルンハルト・マルクス(1795~1866)から。Die Lehre von der musikalischen Komposition, praktisch-theoretisch. Leipzig, 1837/38/45/47.  Ludwig van Beethoven: Leben und Schaffen. Berlin, 1859 

②モーツァルト:弦楽四重奏曲第14番ト長調 K.387 (ハイドン・セット-1)
Allegro vivace assai 4/4 ソナタ形式/ Menuetto: Allegro 3/4/ Andante cantabile 3/4 ソナタ形式/ Molto allegro 2/2
クイケン四重奏団 

  「ハイドン・セット」は、1785年、ウィーンのアルタリア社から作品10として出版。ヨーゼフ・ハイドンに捧げられた。その第1曲だけに、ハイドンを意識ながら、しかも彼を超えている。自筆譜に「1782年12月31日、ウィーンにて」。
  第1楽章では、ト長調の第1主題ははじめハイドン的に晴朗だが、半音階の多用によって微妙な感情を表現する。ニ長調の第2主題は、特徴あるリズムによって新たな世界を拓く。拍節構造に反する強弱によるめざましい効果。万華鏡のような転調を伴う大胆な展開部。メヌエットでも、拍節構造に反する強弱法。トリオはト短調で全く別の世界。
  第3楽章、アンダンテ・カンタービレはハ長調で始まるが、第2主題部はト短調からト調へと、多用な物語が語られる。展開部のないソナタ形式。第4楽章は、ジュピター交響曲を先取りするかのようなフーガとソナタ形式の融合。
  (樋口『バッハ探究』p.130~133、「バッハとモーツァルト」) 第1曲にふさわしく、全ての楽章が新しい。 

 

③モーツァルト:弦楽四重奏曲第18番イ長調 K.464 (ハイドン・セット-5)
Allegro 3/4 ソナタ形式/ Menuetto 3/4/ Andante (cantabile) 2/4 変奏曲/ Allegro non troppo 2/2 ソナタ形式
クイケン四重奏団 

 「1785年1月10日、ウィーン」完成。ベートーヴェンは弟子のツェルニーに、「これは凄い作品だ。ここでモーツァルトは世界に向かって『もし皆さんにそのときが来たら、私が成し遂げられたことを見てください』と言っているよ」と述べたという。
  第1楽章は、曲集唯一の3拍子の冒頭楽章。イ長調の第1主題はイ短調の推移部を経てハ長調の第2主題を導入する。問いを投げかけるようなホ長調の第3主題は、第1主題の動機を用いたコデッタによって提示部を締めくくる。ホ長調で始まる展開部は大胆不敵。
  再現部で、第2主題はヘ長調、第3主題はイ長調となる。長短長が激しく入れ替わり、強弱のはっきりしたイ長調のメヌエットも個性的だ。ホ長調のトリオ主題も、突然のフォルテに驚かされる。ニ長調のアンダンテは変奏曲。この作品の中心をなす。
  主題は2部分からなる。第1変奏は、優雅な32分音符とシンコペーションのリズムが楽しい。第2変奏では32分音符の伴奏音型が第2ヴァイオリンでそうされる、第1ヴァイオリンが闊達な旋律を歌う。第3変奏では、2つのヴァイオリンとヴィオラ、チェロの対話が行われる。第4変奏はニ短調。3連符の音型の対話となる。後半では、第1ヴァイオリンが「ベートーヴェン的」ともいえるような表出力豊かな旋律を奏する。第5変奏は第1と第2ヴァイオリンの対話から始まるが、しだいに全声部が絡んでゆく。第6変奏は、チェロの太鼓のような音型で始まる。上3声はそれに対してゆったりと歌を重ねる。太鼓のような音型は上の声部にも受け継がれ、最後に主題が再現されて終わる。
  第4楽章は、イ長調の線的な主要主題が支配するが、終始対位法的な処理がほどこされる。展開部は、めまぐるしい転調によって盛り上がったあと、ニ長調の静かな楽想がもたらされ、総休止のあと、再現部に入る。長いコーダも主要主題によっている。 

④ベートーヴェン:弦楽四重奏曲イ長調作品18-5
Allegro 6/8 ソナタ形式/ Menuetto3/4 / Andante cantabile (Variazioni) 2/4 変奏曲/ Allegro 4/4(2/2)ソナタ形式
 東京クヮルテット 

  全体の構成、楽章表示、第3楽章の変奏曲を中心とすることなど、モーツァルトのイ長調作品から強い影響を得ていると言われる。 第1楽章はめずらしい8分の6拍子。これもモーツァルトの4分の3拍子に対応している。
  第1主題は前楽節がフォルテで決然と始まるのに対して、後楽節はピアノで、浮遊するような軽快さを持っている。第2主題はホ短調で始まるが、やがてホ長調となる。非常に短い展開部は、第1主題の素材を用いて自由に展開される。再現部も短い。メヌエットは簡素であるが、トリオではピアノとスフォルツァートの特徴的な交代が、田園的な雰囲気を醸し出している。
  簡潔な第1・第2楽章に対して、第3楽章のニ長調の変奏曲が大きな意味をもってくる。2部分からなる歌謡的な主題に基づいた第1変奏は、チェロで開始される主題が、ヴィオラ、第2・第1ヴァイオリンの順で模倣される。後打ちのリズムが2部分を締めくくる。第2変奏では3連リズムの第1ヴァイオリンが主役。第3変奏では、ゆったりした主旋律を32分音符の装飾音型が美しく取り囲む。第4変奏は一転して静かな動きで、4声部がコラールのように豊かな響きを作る。第5変奏では第2ヴァイオリンとヴィオラが主旋律を勇ましく歌い、チェロがリズムを与える。後半では主旋律は、第2ヴァイオリン、チェロ、第1ヴァイオリン、ヴィオラと受け継がれる。ポコ・アダージョで主題が再現され叙情的に終わる。
  終楽章はソナタ形式。速いイ長調の第1主題と、ゆったりしたホ長調の第2主題との対比が明快だ。展開部では、第1主題はヘ短調、第2主題はハ長調で現れ、劇的に展開する。フェルマータを挟んで再現部は明快に示される。再現部では第2主題もイ長調となる。総じて軽やかなフィナーレである。4分の4拍子で書かれているが、実態としては2分の2拍子である。 

☆フランツ・ヨゼフ・マクシミリアン・フォン・ロプコーヴィツ侯爵は、おそらく1798/99年の秋ないし冬に、ハイドンとベートーヴェンにそれぞれ弦楽四重奏曲の作曲を依頼した。その結果がベートーヴェンの作品18(6曲、1801年10月出版)であり、ハイドンの作品77(2曲、1802年出版)。
☆これらの比較から言えること。ハイドンの作品20-1は、簡潔ながら弦楽四重奏曲の全てのエッセンスを備えている。
☆モーツァルトは「ハイドン・セット」6曲において、その全ての可能性をより豊かにすることに成功した。当意即妙であり、ときには饒舌である。まさに天才のひらめき。しかし実際には多くの労苦を伴った。バッハの対位法の助けを借りた。
☆ベートーヴェンは、作品18において、師ハイドンとの直接対決を強いられた。いつになく謙虚に、ハイドンの作品20-1を写譜して学び、さらにモーツアルトのハイドン・セットから2曲を取り上げ、写譜をしながら研究した。リズムの変化、スフォルツァートの多用など、きわめてベートーヴェン的と思われる特徴の多くは、じつはすでにモーツァルトの作品で提示されていることが分かる。チェロの活躍や、憂愁や深刻さも、すでにモーツァルトにみられる。
☆変奏曲のすばらしさは、モーツァルトとベートーヴェンの双方に認められる。強いて言えば、モーツアルトは多彩であり、ベートーヴェンは論理的である。 

  樋口隆一先生は、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンに於ける弦楽四重奏曲というジャンルを媒介とした「精神」の伝達について貴重なエピソードをまじえて大変わかりやすく私達にご講演して頂きました。特にモーツァルトのK464とベートーヴェンの作品18-5、各々の第三楽章の変奏曲を比較しベートーヴェンが如何に学び自分のスタイルを確立していったのか、両者の個性がよくわかり楽しく学ぶことが出来ました。 お忙しい中、ご講演を感謝申し上げます。 

 (文責;石津) 

 

 

 


●例会・懇親会 写真コーナー

 今回の懇親会場は、いつもの「デリ・フランス」お茶の水店に戻り、趣旨に賛同する有志一同で、講師の樋口隆一氏を中心に飲み会に早変わり。ビールで乾杯後、楽しく質疑・応答、懇親が行われた。懇親会においては、皆さん元気いっぱい、話題も豊富で、楽しい賑やかなひとときを過ごすことが出来た。

     なお、写真を削除して欲しい方がおられたら、直ぐに担当宛てメールして頂くか、電話でもよいので、いつでも連絡して欲しいと思います。削除するのは実に簡単なので、作業は直ぐ実施します。

  なお、写真が欲しい方は、原版はHP担当の倉島が全て保管していますので、例えば、懇親会4列の右側の写真の場合は、例えば、懇上から4・右と言うように写真を特定して、下記にメールしていただければ、次回例会までにお届けするようにしたします。ただし、恐縮ですが、Lサイズで30円/枚のご負担をお願い致します。

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