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7月例会(第394回)のお知らせ 


日時: 2019年7月13日(土)
午後2時開演 (午後1時半開場)

会場: お茶の水クリスチャンセンター415号室
(JR御茶ノ水駅下車・徒歩3分) 
例会費: 2,500円 (会員・一般共)
お話: 山崎 太郎 氏
(東京工業大学・リベラルアーツ研究教育院)

 

演題:メルヘンと歴史のはざまで―
―モーツァルトの歌芝居《後宮からの逃走》解読―
遥かなオリエントの地という舞台設定、海賊に襲われた結果、異国の宮中に囚われた女性を恋人の男性が救出するという単純な筋立てから、一種のお伽噺とつとに見なされてきた《後宮からの逃走》(以下、《後宮》)を現実の歴史的文脈のなかに差し戻すことで、この作品の独自性と魅力を解き明かします。
手掛かりとなるのは、逃走を企てた男女のカップルを太守セリムが赦す結末の場面。よく知られているように、《後宮》の台本は同時代に書かれた別の作品を下敷にしていますが、モーツァルトと台本作者のシュテファニーは結末に関して、セリムとベルモンテが親子であったという原作の設定を仇敵同士というものに変えました。それだけではなく、この新たな状況のなかでセリムが口に出す地名こそは、18世紀の地中海世界におけるイスラム圏とキリスト教圏の関係を読み解く重要なヒントとなるものです。
今回の講演では私が長年にわたって読み込んだ18世紀の新聞や古文書の記述に基づいて作品の歴史的背景を再構成し、キリスト教からイスラム教に宗旨替えしたセリムの前半生に光を当てて、唯一の大人として青春の息吹あふれるこの歌劇に翳りを添えるこの人物の謎に満ちた魅力に迫ります。
例会後は恒例の懇親会へのご参加をお待ちしております
会場:「デリ・フランス」お茶の水店・℡03(5283)3051

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今後の例会予定 (OCC:お茶の水クリスチャンセンター)
9月21日(土)宮谷 理香氏 ピアノリサイタル (初回)
代官山チャーチホール 
10月26日(土)加藤 浩子氏 OCC415号室
11月30日(土)西川 尚生氏 OCC415号室
12月14日(土)久元 祐子氏・永峰 高志氏 リサイタル
        セレモアコンサートホール武蔵野
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例会第400回記念祝賀会のお知らせ
来たる2020年2月に、当会は例会第400会を迎えます。過去に行った例会300回記念祝賀会のように、顧問の先生方や特別ゲストにお話やご演奏をいただき、華やかな400回記念祝賀会を開催したいと思います。
現在のところ、2020年1月19日(日)または18日(土)午後の新年会において祝賀会を行う方向で、理事会で企画中です。詳細が決まり次第、告知いたします。

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令和元年会員総会のお知らせ
7月13日(土)午後12時半から、会員総会をお茶の水クリスチャンセンター415号室で開催いたします。昨年度の活動実績や会計報告、規約一部変更等を討議いたしますので、ご参加をお願いします。    会長 松永洋一

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開催日決定!モーツァルトをとっておきの映像で楽しむ会 ​ ←クリック
日時:2019年8月4日13:30~16:30
場所:麻布区民センター講習室​ 
←クリック

(港区六本木5-16-45 電話03-3583-5487)
趣旨: モーツァルトの名曲の映像を65型の液晶ディスプレイと上質な音質で鑑賞する会を企画しました。フェライン会員の方でなくても参加自由です。曲当てクイズ、指揮者の真似事をするコーナーも設けました。映像は私が長年撮りためたNHKの放送が主ですが、市販のDVDもご紹介します。その数が余りにも多いため、紹介しきれなかったものは今後フェラインの例会でテーマを絞ってご紹介することも考えております。会費は室料と機材運搬費の合計額を、参加者数で均等割りした金額とさせて頂きます。
プログラムの全容を写真入りで掲載した資料を作成中です。終了後、近くのレストランで食事会を予定しています。自由参加で、場所は未定です。担当: 山田 健二

 


第393回例会報告 (2019.6.15)
お話: 田村 和紀夫 氏
(青山学院大学・大学院講師・音楽学)
演題: 『フィガロの結婚』K.492の革命
―オペラ『フィガロ』と原作との比較研究―   
 私の音楽体験はビートルズから始まり、クラシック音楽とりわけモーツァルトに興味を持つようになった。音大の楽理科では文献研究を行ったが、楽譜から音楽を捉えたいという考えが、私の音楽研究の根底に流れる常に変わらぬ方法論であった。修論ではモーツァルトのピアノ・ソナタを取り上げ、楽譜からモーツァルト的なものを明らかにする、つまり定量的なものから定性的なもの分析する困難さと可能性と学んだ。
 『フィガロの結婚』は、1784年にボーマルシェが初演した戯曲の発表後わずか2年で、モーツァルトが満を持して書き上げたオペラである。ダ・ポンテは、フランス語戯曲をイタリア語に変更し、内容を切り詰めて台本にした。
1.何がドラマを動かすのか -ケルビーノの第6番のアリアを巡って-
 ダ・ポンテとモーツァルトは、第6番のアリアで、ボーマルシェが創作したケルビーノというキャラクターに「そして自分ではわからない欲望desio(desire)が愛について語らせる」という句を挿入している。これは『フィガロ』の劇的原理の提示であり、バロック・オペラからの訣別を告げる瞬間だった。オペラは欲望のドラマになった。モーツァルトはここに減七の和音の痛切な響きと、フレーズを切りつめた切迫感をもたらした。
<CD視聴>
 西洋音楽史はグレゴリオ聖歌から出発したが、オペラはバロック期の国王の権力を誇示する祝祭として発展した。デカルトは「音楽は感情を表現する」と記載したように、バロック・オペラは感情を表現したが、『フィガロの結婚』では欲望が劇を動かしている点が革命的と言える。現実を歌いあげることで、モーツァルトは、オペラを単なる感情の表現としてではなく、欲望がうずまく現実そのものの表現とし、その根底にある「性」を示唆した。 その現実の世界で我々はどうあるべきか、これがモ-ツァルトが創出した新たなオペラに隠されたテーマとなった。
2.陰のヒロイン -伯爵夫人へのスポットライト-
 第2幕の冒頭では伯爵夫人の独白ともいうべき変ホ長調のカヴァティーナが歌われるが、第1幕終盤の「動」の後だけに、印象的な「静」の時間となり「たわけた1日」に活力を与えている。モーツァルトは5「5」年前に作曲したミサ曲ハ長調K.377の「アニュス・デイ」の冒頭を引用して、伯爵夫人の内なる祈りが込め[られ]た。
 ミサ曲「アニュス・デイ」は、内なる平和を表す前半部はゆっくり始まり、社会の平和を求めるdona nobis pacemから快活になり、アップテンポとなる。ここでは前半部を取りあげながら、欲望と祈りを対比させている。教会音楽をオペラの中心に持ってきた点がしばしば問題ともなったが、欲望の渦巻く現実に静なる祈りを持ってくることで、モーツアルトは現実世界そのものを捉えたと言える。
3.戯曲からオペラへ -第3幕以下の検証-
 ダ・ポンテは戯曲を5幕から4幕仕立てに変更し、大幅に削除したが、モーツアルトがやりたかった点として追加した部分が重要である。
4.変更 -短縮化と一般化-
 当時の悲惨女性や市民階級の思いが描かれた戯曲の第3幕マルスリーヌや第4幕のフィガロの台詞をマルチェリーナのアリア第24番やフィガロ第26番のアリアに変更する際、ダ・ポンテは大胆に短縮化し、政治色を薄め、一般化した。
5.追加-伯爵夫人のレチタティーヴォとアリア第19番
 モーツァルトは、第3幕第8場にも重要な伯爵夫人のアリアを追加したが、ここでは戴冠ミサ曲K.317の「アニュス・デイ」と酷似した旋律を用いた。このアリアではミサ曲の全構造を引用しているが、過去を懐かしむアンダンティーノで始まり、「愛を絶やさない変わらぬ心が、あの人を変える希望となるなら」と、ポジティブに生きることを決断した後に速くなる。これはキリストへの内なる祈りであるアニュス・デイと、外での平和を祈念するドナ・ノビスという構図と完全に一致する。また、苦しみの言葉の際に♭(フラット)となり、一時的に短調を取ることで、決意はしたが苦しみは残っていることを暗示している。モーツァルトは、期待はしないが希望を持って生きる伯爵夫人を描いたのはないだろうか。
6.決意の心理学
<DVD鑑賞>レヴァイン&メトロポリタン歌劇場管弦楽団&合唱団{1990年}
 伯爵夫人のアリアはアンダンティーノからアレグロに変わる際、レヴァインの演奏はだんだん速くなる。だんだん「判ること」はないと考えると、このレヴァイン盤の演奏はモーツァルトの深い心理描写をとらえているといえるかかどうか。
 ①台本にスザンナが持参金を伯爵からもらうシーンが無い、②初演でバルトロとアントニオがシングルキャストであったため着替えの時間が必要であったので現行版のアリアの順番になった、という2説から第18番の六重唱とこの伯爵夫人のアリアを入れ替えた方が良いとする説があるが、原作では持参金は伯爵夫人からもらっているので、私はこの説は間違いだと考えている。
7.赦しの構図
 第4幕の浮気をめぐる策略が曝露された後の伯爵の言動とその反応で、伯爵夫人は「ハイと申しましょう」と歌うが、ここでは偽終止[Em]で進行している。
 伯爵の「赦せ」はアンダンテのテンポが指定されており、謝る「本気度」はテンポによって変わりもしよう(最近の演奏ではアダージョで演奏されることが多い)。
<質疑応答>質問①伯爵夫人は人間的に成長するし、赦しの場面を歌うという点でヒロインなのではないか?
回答①ドン・ジョバンニでもそうだが、タイプの違うスザンナと伯爵夫人が共存している点が凄い点ではないか。
質問②『フィガロの結婚』は『セビリアの理髪師』の3年後の設定なのか?回答②設定や伯爵夫人の年齢は不明。
                                                文責 松永洋一
 

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