第310回 モーツァルティアン・フェライン例会 2011年12月17日
事務局レター【第185号】/2011年12月
【編集者】澤田義博/若松茂生/富田昌孝/宮崎宇史/古田佳子 bxp00423*yahoo.co.jp (スパムメールが増えてきましたのでリンクを外しました。お手数ですが*を@に替えて送信願います)
●12月例会(第310回)のお知らせ
下山静香レクチュアーコンサート「モーツァルト、そしてスペイン」 ピアノとお話:下山静香氏
日時:2011年12月17日(土)午後2時
会場:荻窪「かん芸館」(荻窪駅南口より徒歩7分)
例会費:¥3000(会員・一般共)全席自由 当日券あり 会員以外の方大歓迎
お問い合わせは川口まで【Email】fortuna-h*kuf.biglobe.ne.jp(スパムメール対策です。*を@にかえてください)
♪♪♪ プログラム ♪♪♪
モーツァルト・・・・ソナタ KV.280 ヘ長調
モーツァルト・・・・ソナタ KV.310 イ短調
♪―――――♪―――――♪
A.ソレール・・・・ソナタより
J.C.アリアーガ・・・・エストゥディオ・オ・カプリチオより
X.モンサルバーチェ・・・・イヴェットのためのソナチネ
I.アルベニス・・・・コルドバ
M.deファリャ・・・・火祭りの踊り
――――― 下山先生からのメッセージ
このたびは、モーツァルティアン・フェラインの例会にお招きいただきとても光栄に思っております。
前半は“いま、私が弾きたいモーツァルト”としてソナタを2曲演奏させていただきます。K.280は〈モーツァルトイヤー〉2006年に、仙台クラシックフェスティバル「モーツァルトピアノソナタ全曲シリーズ」のオープニングコンサートで演奏した思い出があります。K.310は短調ということもあって好きな曲なのですが、なかなか演奏する機会がないので今回入れさせていただこうと思いました。
後半は、私なりの切り口で・・・ということで、4年ほど住んでおりましたスペインの音楽をお贈りします。まず、モーツァルトと生きた時代が一部重なるソレール。彼は100曲以上の鍵盤楽器用ソナタを書いており、18世紀スペインを代表する作曲家です。「スペインのモーツァルト」と呼ばれるアリアーガは、ピアノのための作品は大変少ないのですが、この春スペインのバスク作曲家資料館で見つけた曲をご紹介したいと思います。
そして 、現代スペインを代表する作曲家モンサルバーチェ(故人)からは、本来はフランス民謡ながら、モーツァルトによって大変有名になった〈きらきら星〉のテーマが顔を出すので「イヴェットのためのソナチネ」を選んでみました。そして最後に、まさにスペイン!という音楽、アルベニスとファリャの作品を演奏いたします。
会員の皆さまにお目にかかり、語らうことができますのを心より楽しみにしております。
例会後の懇親会ももちろんございます。大勢のご参加をお待ちしております。
会場: Shakey's 荻窪店/03(5347)2990(杉並区荻窪5-28-13 荻窪駅前ビル2F)
●今後の例会のご案内(会場記載のないものはお茶の水クリスチャンセンターです)
1月14日(土) 2012年新年会
2月18日(土) 江端伸昭氏(作曲家)
3月17日(土) 幅 至氏(音楽オーガナイザー)
4月14日(土) 田辺秀樹氏(一橋大学院教授)
5月・樋口隆一氏、6月・久元祐子氏、の予定です。
●11月例会の報告(第309回/11月19日)
第1部:フルートとピアノによるミニ・コンサート フルート/木村好伸、ピアノ/石黒裕丈
第2部:モーツァルトのオペラ:僕の決定盤 お話/若松茂生
◆K453ムクドリさんがホームページの会員広場に例会の感想をお書きになっていますが、素晴らしい例会報告になっていますので以下にご紹介します。
《今回は大変バラエティに富んだ内容の有意義な例会でした。前半は生演奏で、1曲目が木村さんのフルート、石黒さんのピアノによる「フルートとハープのための協奏曲ハ長調」のピアノ&フルートによる編曲版でした。オーケストラ伴奏でしたらハープの方が良いでしょうが、室内楽版ではハープとピアノの音色が重複してしまうような気がしますので、ハープとオーケストラ部分をピアノで弾く、この日の版の方が正解だと思います。
木村さんのテクニックは正にプロ級で、そのうえカデンツァが独創的でとても見事でした。第1楽章が終わると期せずして拍手が起こりました。(「大したもんだ~ッ!!」との掛け声もあり) 楽章間の拍手に目くじらを立てる人もいますが、私は楽章間の拍手も場合によっては悪くないと思います。交響曲や弦楽四重奏曲ならば別ですが、独奏者の華やかな技巧をアピールするような曲の場合、楽章間の拍手が雰囲気を盛り上げる場合もあると思います。
前半の2曲目は石黒さんのピアノソロでソナタ ハ長調K.309でした。調号が何も付いていないハ長調は一見、簡単そうですが、石黒さんの「ハ長調の音階というのは長い指を丸めなければいけないので、実は非常に難しい」というコメントは大変啓発的でした。
「ロ長調のように白鍵を親指で、黒鍵を人差し指、中指で弾くのが練習曲には相応しい」言われてみれば、まさにその通りですね。確かショパンは、それまでの練習曲が全てハ長調から始まっているのに異議を唱え、ホ長調やロ長調が中心となる練習曲集を作曲し、革命を起こしたと記憶しています。石黒さんの演奏も堂々としたスケール感と気品が感じられ見事でしたが、演奏前の解説も示唆的で興味深く、ぜひ一度、講師としてフェラインの例会でレクチャー・コンサートをして頂きたいと思いました。
後半は若松さんの「モーツァルトのオペラ:僕の決定盤」でした。世評や評論家の推す演奏に惑わされず、自分の決定盤を持てるのは良いことですね。「学問的に正しくても、聴いていて感動を与えられない演奏ならば意味がない」という意見には私も全く同感です。
また若松さんは「『皇帝ティトゥスの慈悲』は決して駄作ではない」と、言っておられましたが、ご紹介のあったケルテスの演奏で聴くと説得力がありますね。私は作品の評価は軽々しくすべきではないと思っていますが、それまであまり高い評価を受けていなかった音楽が、優れた演奏家と出会うことで輝きを放つということは少なくありません。》
◆協奏曲のカデンツァとアンコールが好評でしたが、木村さんから次のようなコメントをいただきました。
《この曲のカデンツァは、ライネッケのものが有名ですが、他にはピルネーやニノ・ロータ等数種類あり、いずれもハープと一緒のカデンツァです。今回はフルートのみでカデンツァを演奏するので、フルート単独のカデンツァの楽譜を探しましたが、残念ながら見つかりませんでした。そこでカデンツァをいろいろと見たところ、1946年米国生まれのフルーティストで編曲家のロバート・ストールマン(Robert Stallman)の作品が目に留まりました。それでも、ハープ無しなので何箇所か独自で編曲しました。一部ハープのパートも吹いています。
アンコール曲は「ふるさとによるポエム」で編曲者は安田扶充央です。編曲者の詳細は不明ですが、「ノスタルジーと愛をテーマに編曲した」とのことです。 当日「今年のアンコールはこの曲に決めている」と申し上げましたが、東日本大震災のことを思い演奏したことは、お気付きのことと存じます。》
※なお石黒さんのアンコール曲はシューベルト作曲 即興曲OP90(D899)第3曲で、ソナタ同様素晴らしい演奏でした。
◆第2部は12ページの講演原稿とお聞かせしたい曲をLPからダビングしたCD(各70分)を2枚用意しました。全部話してCDを聞くと3時間かかるところを、45分ですませなければならず、《ドン・ジョバンニ》《コシ》《魔笛》は割愛、その他のオペラについても駆け足でお話ししました。講演原稿は季刊第80号に掲載予定です。(若松茂生記)
●第4回会員総会議事録
日時:2011年11月19日 13時~13時50分
場所:クリスチャン・センター
議事の内容
1.澤田会長より昨年度から今月までの活動報告、および来年の予定について説明
2.隅田理事より会計報告
会員より質問: 昨年度の例会費が前年度比減少している理由は何か?
川口副会長より回答: 現在フェラインは会員の平均年齢上昇による過渡期にある。
従来の常連会員が健康上の理由等により欠席が増えている。
澤田会長より回答:今後、益々例会の内容を魅力あるものとすべく努力を続けていきたい。
青柳監事より決算内容は適切かつ適法である旨、報告あり。
3.役員紹介
今回は役員改選期に当たっているが、現状全員留の旨説明。各役員を紹介。
なお、今後青柳監事が近い将来、交替する可能性がある旨会長より付言。
4.その他
会員より、TPOに応じた会話を心がけるよう示唆があった。
なお、来年より会員総会は7月例会の前に開催致します。以上。
●情報コーナー
コンサート情報 ★こちらからどうぞ(M)
CD情報(外盤価格はHMVの一般価格) ★こちらからどうぞ(T)
●例会・懇親会 写真コーナー
例会は、昨年に引き続き木村さんのフルートと石黒さんピアノのコンビで、フルートとハープのための協奏曲K.299、石黒さんの独奏ピアノでモーツァルトのハ長調ソナタK.309の2曲が前半の第一部のメニューで、後半の第二部は若松名誉会長の「オペラの僕の決定盤」というコンサートの実演とお話の盛り沢山の例会であった。
例会終了後、有志一同ビールで乾杯後、三人の講師を交えての懇親会は盛大であり、ワインを飲みながら、楽しい賑やかな懇談会となっていた。この席で、第一部のお二人には、来年も講師のお願いしており、どうやらご了解を得たようであったが、飲み会での話題は、コンサートの中身からオペラの話まで広い範囲にわたって、話が尽きなかった。 (文責、倉島)
第309回 モーツァルティアン・フェライン例会 2011年11月19日
事務局レター【第184号】/2011年11月
【編集者】真部淳/富田昌孝/宮崎宇史/古田佳子 bxp00423*yahoo.co.jp (スパムメールが増えてきましたのでリンクを外しました。お手数ですが*を@に替えて送信願います)
●11月例会(第309回)のお知らせ
♪第1部「フルートとピアノによるミニ・コンサート」 フルート/木村好伸氏、ピアノ/石黒裕丈氏
曲目 ①フルートとハープのための協奏曲 K299 ②ピアノ・ソナタ K309
♪第2部「モーツァルトのオペラ:僕の決定盤」 お話:若松茂生氏(本会名誉会長)
日時:2011年11月19日(土)午後2時
会場:お茶の水「クリスチャンセンター」(JR「お茶の水」下車・徒歩3分)
例会費:¥2000(会員・一般共)
――――― 講師の若松名誉会長からのメッセージ
季刊「モーツァルティアン」編集部主催11月例会のコンサートと講演は、第1部で木村好伸さんのフルート、石黒裕丈さんのピアノで《フルートとハープのための協奏曲》のフルート独奏版と石黒さんのピアノでピアノ・ソナタK309 を演奏します。第2部は若松が「モーツァルトのオペラ:僕の決定盤」と題したお話です。
【木村さんからのコメント】
今回は、残念ながらハープ抜きですが、ピアノがオーケストラと独奏ハープ双方を担当します。名手石黒さんに、無理言ってその重責を担って貰いました。石黒さんの奏でるメロディーが、オーケストラかハープかを聴き分けながら楽しんで頂ければと思います。
【石黒さんからのコメント】
第1楽章の冒頭は堂々としたマーチ風の序奏から始まり、それに素朴ながら澄み切った美しさを持った第1主題が続く。第2楽章は主題が変奏を繰り返しながら精神の高揚をみせる。第3楽章は「みずみずしい高山植物」と「雄大なアルプス」とのコントラストと例えるのはどうだろう。私の私見であるが、全ソナタの中でも規模や内容の面から見て「高貴」な作品の1つとして数えたい。
【若松のコメント】
オペラのレコードで感動を与えてくれた全曲盤はごく少数である。その少数の全曲盤が僕の「決定盤」になった。不思議なことに、最初に聴いた全曲盤がほとんど「決定盤」になっている。最初に聴いたレコードだからそうなのだろう、という見方は当たらない。《後宮》はそうではなかったし、交響曲など器楽曲では最初に聴いたレコードでないことが多い。結局40年もの長い間聴き続けてきたという実績、何度聴いても感動を与えて行くれるレコードが「決定盤」であるかどうかの基準である。(若松茂生記)
例会後は恒例の懇親会へのご参加をお待ちしております。 会場:「デリ・フランス」お茶の水店/03(5283)3051
●今後の例会のご案内(会場記載のないものはお茶の水クリスチャンセンターです)
12月17日(土) 下山静香氏(ピアニスト) ※会場:かん芸館(荻窪)←アクセスはトップページのリ ンクからどうぞ。
1月14日(土) 新年会
2月18日(土) 江端伸昭氏(作曲家)
以下、3月・幅 至氏、4月・田辺秀樹氏、5月・樋口隆一氏、6月・久元祐子氏、の予定です。
●お知らせ
◇今月は例会の前に例年通り、午後1時より、会員総会を開催いたします。ご参加のほどお願い申し上げます。
◇モーツァルティアン・フェライン新年会出演者について
◎日時 2012年1月14日(土)
◎募集内容 お話・・・15分程度、演奏・・・5分~10分
◎条件 モーツァルトに限る(新人の方優先・例会出席率良好の方優先)
◎お問合せ 川口 fortuna-h*kuf.biglobe.ne.jp( スパムメール対策です。*を@にかえてください)
※多数のお申込み有り難うございました。残り若干名募集中。宜しくお願い申し上げます。(川口)
●10月例会の報告(第308回/10月1日)
交響曲、協奏曲、オペラにおける楽器編成:クラリネットに焦点を当てて お話:真部淳氏(本会会員)
1.交響曲、協奏曲、オペラにおける楽器編成
まず私自身が北大交響楽団でクラリネットを吹いていたので、同楽器に対する思い入れが強いことを述べまし た(ケルビーノの2曲目のアリアをちょっと吹きました)。真部作成の表(Robbins LandonのThe Mozart Compendium 1990を参考にしました)と譜面をながめながら、各ジャンルにおける楽器編成の変遷を説明しま した。詳しくは前号の事務局レター第183回の概要を参照してください。
考察:作曲開始時からクラリネットの使用を前提とすると、フラット3つかシャープ3つになりやすい。クラリネット五重奏曲もクラリネット協奏曲もイ長調である。オペラでもクラリネットの活躍するアリアはイ長調や変ホ長調の周辺の調性が多く、しっとりした曲想を持つ。特にコシで顕著。コシでは序曲と各幕のフィナーレを除いてクラリネットとオーボエが一緒に用いられることは少ない(以下、CD用いて解説)
第4曲(イ長調、姉妹登場の場面)、第6曲(変ホ長調、みんなが出会う)、第10番(ホ長調、お別れの三重唱、ついでにこの曲は途中で木管に18世紀を突き抜けそうな怪しい和音がある)、第11番(変ホ長調、ドラベッラのアリア)、第17番(イ長調、フェランドのアリア)、第21番(変ホ長調、男二人と合唱)、第23番(ヘ長調、ドラベッラとグリエルモの二重唱)、第24番(変ロ長調、フェランドのアリア)、第25番(ホ長調、フィオルデイリージのアリア、この曲はホルンも名人芸が必要)など。
結論:モーツァルトはクラリネットなどの管楽器(奏者)をオペラ歌手と同じように扱ったのである。すなわち、仕立ての服と同じようにその演奏家にピッタリの曲を誂えた。すなわち、交響曲や協奏曲における木管楽器の旋律はオペラアリアと同じように書かれたといってよい。
次いで、クラリネット以外の楽器の扱われかたを論じました。
結論:楽器編成は想定される演奏会の都合など、外的な要因で決まることが多い。その場合、モーツァルトはその条件を利用して調性や曲想を決めた可能性あり。一方、モーツァルトの希望で楽器編成を決められる場合もあったかもしれない。その場合、後年(晩年)はオーボエよりもクラリネットを重視した。また、あえてトランペットとティンパニを省くこともあった。
<謎1>交響曲第40番とピアノ協奏曲第27番は編成が同一である。同時期に構想されたのか?タイソンの研究によるとその通りである。すなわちこの2曲は双子なのである。調性はともにフラット2個である(楽譜の第1ページなど、見かけはそっくり)。曲想は似ているだろうか?
<謎2>3大交響曲はわずか2ヶ月で書き上げたられたことがわかっているが、なぜ楽器編成がこれほど相違しているのか?1回の演奏会を想定して書かれたとは考えられない。将来行われるであろう、複数の演奏会を想定しながら、しかし何かの事情があって一気に書かれたのであろうか。急に出版する必要性が生じたのであろうか。
「そもそもモーツァルトの頭の中では以前からこの3曲のアイデアはほぼ完成しており、それをこの機会に書きおろしただけのことでしょう。現代でも将棋や囲碁の名人をみると、過去の対局がすべて頭の中に入っているようです。モーツァルトとはそのような能力のある人だったのでしょう。」とは礒山雅先生のご意見である(今年の7月16日)。
ここで休憩。後半は簡単に述べます。
2.ジュピター交響曲とベートーヴェンの交響曲第1番の関係:CDとピアノと譜面を用いて詳細に検討。ベートーヴェンはすべての旋律をモーツァルトからパクっていました!
3.ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番ハ短調:昔からK491に似ているといわれてきたが。たしかに第1楽章は似ている。しかし第3楽章はK466にそっくり?ここで二人の作曲家におけるハ短調とニ短調の相克について議論しました。その結果、ニ短調はモーツァルトにとって「運命の調であった」という新説を披露しました(講演後、異論あり)。
4.モーツァルトの曲はあまりにも過不足なく音符が使われているので、ピアノ曲以外の曲を即興的にピアノで弾くのは難しい(ピアノで補足)。江端津也子先生も同意見でした。
5.レクイエムはどこから来たのか?についての新説(今後、詳しく再提示する予定)。最後に笠島三枝子さん(S)と田中進さん(Br)と真部のピアノで、魔笛から第7番の二重唱「愛を感じる男ならば」とKonnte jeder brave Mann、そしてシューベルトの「のばら」:シューベルトもモーツァルトからパクっていたという例を示しました。歌声は素晴らしく、大団円でした。
今回は会員の発表だったため、終了後にご意見や質問が10個以上もあって、大変和やかかつ私もとても楽しかったですし、勉強になりました。貴重な機会を与えていただき、感謝します。(真部)
●情報コーナー
コンサート情報 ★こちらからどうぞ(M)
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●例会・懇親会 写真コーナー
例会は、かねてモーツァルトについて高い見識をご披露している真部先生が講師で、クラリネットがどのような作品に用いられているかという、モーツァルトを聞き出すと誰もが疑問に思って来る関心の深いことをテーマに、とても分かりやすいお話をして下さったが、真部先生ご本人がクラリネットを学生時代に吹いていたことは初公開であった。
また、飛び入りと言っては失礼であるが、思いがけず、笠島三枝子さん(S)と田中進さん(Br)と真部先生のピアノで、魔笛から第7番の二重唱「愛を感じる男ならば」と笠島さんのシューベルトのリート「のばら」の演奏があり、実に楽しい余興がご披露されていた。
例会終了後、有志一同ビールで乾杯後、真部先生を中心に、先生を囲んで、ワインを飲みながら、楽しい賑やかな懇談会となっていた。今回は、ベートーヴェンがまねの天才であることを楽譜やピアノで証明して下さったが、シューベルトやブラームスまで出てきたので、飲み会での話題が尽きなかった。
(文責、倉島)
第308回 モーツァルティアン・フェライン例会 2011年10月1日
事務局レター【第183号】/2011年10月
【編集者】倉島収/富田昌孝/宮崎宇史/古田佳子 bxp00423*yahoo.co.jp (スパムメールが増えてきましたのでリンクを外しました。お手数ですが*を@に替えて送信願います)
●10月例会(第308回)のお知らせ
交響曲、協奏曲、オペラにおける楽器編成:クラリネットに焦点を当てて お話:真部淳氏(本会会員)
日時:2011年10月1日(土)午後2時
会場:お茶の水「クリスチャンセンター」(JR「お茶の水」下車・徒歩3分)
例会費:¥1500(会員・一般共)
――――― 講師の真部さんからのメッセージ
モーツァルトの時代、クラリネットは比較的新しい楽器でした。モーツァルトは1781年にウイーンに移りました(結婚は1782年)が、クラリネットの使用はこの頃始まります。当初は13管楽器のためのセレナード(変ロ長調、K361、1781)やピアノと木管のための五重奏曲(変ホ長調、K452、1784)やケーゲルシュタットトリオ(変ホ長調、K498、1786)など、 Anton Stadlerが参加した室内楽で用いられましたが、管弦楽ではまれでした。そもそも奏者がいなかった可能性もあります。
1)オペラ:クラリネットはイドメネオ(1781、ミュンヘン)以後、常に用いられた。
2)交響曲:パリ交響曲以外は第39番(1788)まで用いられず。ただし第40番ではクラリネット入りの版も同時に作られた。第35番ではフルートとクラリネットが1783年に加えられた。第39番ではオーボエが用いられていない。
3)ピアノ協奏曲:第22番、第23番、第24番のみ(1785-1786)で用いられた。第22番と第23番ではオーボエが用いられていない。第24番はフルート、オーボエ、クラリネット、バスーン、ホルン、トランペット、ティンパニが入った最大編成。
4)最後の作品レクイエムではバセットホルンが用いられているが、オーボエもホルンも用いられていない。
<考察>モーツァルトは可能な限りクラリネットを用いようとしたのか、あるいはオーボエに代わるものとしてクラリネットを使おうとしたのかはよくわからず。交響曲第39番と協奏曲第22番は変ホ長調(フラット3つ)、第23番はイ長調(シャープ3つ)、第24番はハ短調(フラット3つ)。クラリネットにはB(ベー)管(フラット2つが主調)とA(アー)管(シャープ3つが主調)の2種類があります。作曲開始時からクラリネット使用を前提とすると、フラット3つかシャープ3つになりやすい傾向あり。クラリネット五重奏曲もクラリネット協奏曲もイ長調である。オペラでもクラリネットの活躍するアリアはイ長調や変ホ長調の周辺の調性が多く、しっとりした曲想を持つ。
今回の例会では他の管楽器の使い方も含めて、実際に楽譜を示し、CDやピアノ演奏(+声楽?のsurpriseあり!)も交えながら楽しく論じようと思います。またいつものように、モーツァルトの他の作曲家に与えた大きな影響についてもお話しする予定です。
例会後は恒例の懇親会へのご参加をお待ちしております。 会場:「デリ・フランス」お茶の水店/03(5283)3051
●今月のインテルメッツォ(ピアノ演奏:岩島富士江)
【ピアノ音楽の歴史連続演奏 第38回】 「ソナタ楽章、アレグロ」ゾフィーとコンスタンツェ対話入り、変ロ長調、K.400(372a)(1781年ウィーン・25歳)
久しぶりの演奏ですが、これは珍しい曲なので是非皆さんにお聞かせしたいです。モーツァルトはゾフィーとコンスタンツェ姉妹の対話を聞きながら作曲をしていて、それを音にしてしまい、また思い出したようにもとの続きに戻ります。このような冗談が天才モーツァルトらしく、楽しい曲です。(岩島)
●今後の例会のご案内(会場記載のないものはお茶の水クリスチャンセンターです)
10月 1日 真部淳氏(本会会員)
11月19日 若松茂生氏(本会名誉会長)
12月17日 下山静香氏(ピアニスト) ※会場:かん芸館(荻窪)←アクセスはトップページのリンクからどうぞ。
2012年1月14日 新年会
以下、2月・江端伸昭氏、3月・幅 至氏、4月・田辺秀樹氏、5月・樋口隆一氏、6月・久元祐子氏、の予定です。
●お知らせ
◇11月19日(土)の例会の前に13:00より、会員総会を開催いたします。ご予定をお願い致します。
◇モーツァルティアン・フェライン新年会出演者募集
◎日時 2012年1月14日(土)
◎募集内容 お話・・・15分程度、演奏・・・5分~10分
◎条件 モーツァルトに限る(新人の方優先・例会出席率良好の方優先)
◎お問合せ 川口 fortuna-h*kuf.biglobe.ne.jp( スパムメール対策です。*を@にかえてください)
●9月例会の報告(第307回/9月16日)
映像で見比べる《ドン・ジョヴァンニ》の魅力 加藤浩子氏(音楽評論家)
《ドン・ジョヴァンニ》は、さまざまな解釈ができるオペラといわれるが、それは登場人物たちが、みな、ひとつの感情では割り切れない葛藤を抱えており、普遍性があるからとされる。そのため最近の舞台では、ありとあらゆる試みがなされており、音楽の面では、古楽ブームの浸透とともに演奏スタイルは大きく変わってきており、この潮流が新鮮な息吹を吹き込んでいることは間違いない。
また演出家にとってもこのオペラは、おそらくもっともやりがいのあるオペラのひとつであり、多面性を持つ登場人物や、どの時代に置き換えても違和感のない物語は、想像力をたくましくしてくれ、時には行き過ぎもあるが、はっとするような発見に満ちた舞台も少なくない。知れば知るほど奥が深い《ドン・ジョヴァンニ》。その魅力を、今回の講演では、いろいろな舞台映像を通して改めて感じていただきたいという試みであった。
今回は、ハイライトとなる部分をスタンダードな映像で紹介してから、さまざまな演奏、演出を比較して楽しんでいこうとするもので、先生が自らDVDを操作し、映像を見ながらお話し頂いた。使用したDVDの比較の基本となる映像は、[1]フルトヴェングラーの映像を使用しておられた。
1)《ドン・ジョヴァンニ》のアリア、第11番シャンパンの歌および第16番セレナーデ
《ドン・ジョヴァンニ》は、他のオペラに比べて、タイトルロールとしての自己を表現するアリアがないと良く言われるが、モーツァルトが作曲した第11番〈シャンパンの歌〉および第16番<セレナーデ>は、いずれも非常に短いが、主人公の性格や人物を的確に描写した立派なアリアであると考えられる。第11番、第16番ともに初めにフルトヴェングラー[1]の映像のシエピの演奏を見て、続いてヤーコプス[4]の映像で若きヴァイサーの歌で聴いた。
後者ではマンドリン奏者を従えて、寝転がって歌うジョヴァンニの歌が珍しく、それに酔ったように窓辺で聴き入るエルヴィーラの侍女の姿が印象的で、ヴァイサーは繰り返しでは装飾音をつけながら歌っていた。
2)ドンナ・エルヴィーラのアリア第21b番〈あの恩知らずは私を裏切り〉
エルヴィーラが自分を捨てたジョヴァンニを憎む心と、裏切られたが彼を哀れに思う優しい心との矛盾した気持を歌う技巧的な名アリアで、ウイーン初演に際し名花カヴァリエーリのために作曲したとされる。フルトヴェングラー[1]の映像の美人のデラ・カーザのしっかりとした歌を聴いてから、アーノンクール盤[3]のバルトリの歌で聴いた。バルトリの歌は感情移入が激しく、声量一杯に力強く歌っており、さらに映像では豊かな表情が見事にクローズアップされ、時代の違いを強く感じさせた。
3)ジョヴァンニとツェルリーナの二重唱、第7番〈手に手を取って〉
先生から本日の資料として配布されたこの曲のスコアと、「天才的な口説きの音楽」と題された先生のエッセイのコピーを、拝見しながらお話を聞いた。
初めにスコアについては、凄い口説き文句のレチタティーヴォのあとに、ジョヴァンニが甘い言葉で歌い出し、ツェルリーナが戸惑いながら答える二人の二重唱が始まっていたが、スコアではジョヴァンニが46小節まで「行こう、行こう」と誘っていたが、それ以降はツェルリーナの方がその気になって「行こう」と言いだし、逆に誘うようにテンポが早まって進行し、彼女の気持ちの変化が音で見事に表現されているとのお話であった。
なお、例会前日に郵送された季刊「モーツァルテイアン」78号の表紙を飾る自筆譜は、何と偶然にも、二重唱のこの部分のコピーであったので驚いた。初めにフルトヴェングラー[1]のシェピとベルガーの有名な二重唱を聴き、次いでヤーコプス[4]のヴァイサーとイムの演奏を聴いたが、いずれもツェルリーナが紅潮していくさまが伺われ、後者では装飾音を巧みに入れていたのが印象的であった。
以下、4)ジョヴァンニとドンナ・アンナとの関係;第一曲、導入曲、5)ジョヴァンニとレポレッロとの関係;クシェイ演出の特殊性、6)しゃれている終結の例;最後の場の六重唱、7)珍しいツエルリーナとレポレッロの二重唱(ウイーン版)、など面白い映像を見ながら時間の許す限りお話し頂いたが、ここでは割愛せざるを得ない。しかし、次の「季刊」で見て頂くようにしたいと思う。
以上の通り、モーツアルトとダ・ポンテの《ドン・ジョヴァンニ》についても、今日はその一端をほんの少し見ただけであるが、さまざまな演出が行われるようになっている。
しかし、この《ドン・ジョヴァンニ》は、時代によっていろいろな面を見せてくれたり、いろいろな解釈が可能となるオペラであり、そのふところの深さというか、幅の広さはシェイクスピア劇に匹敵するように思われる。従って、この《ドン・ジョヴァンニ》は、時には行き過ぎがあるかも知れないが、時代を超えてさまざまな形で解釈され、いろいろな魅力ある登場人物たちに接することが出来る、知れば知るほど奥の深い素晴らしいオペラであることを再認識して、新しい試みにも共感を持って楽しんで頂きたいと思う。(2011/09/12 文責:倉島)
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CD情報(外盤価格はHMVの一般価格) ★こちらからどうぞ(T)
●例会・懇親会 写真コーナー
例会日は、生憎の台風接近で、例会が出来るかどうか前日まで心配していたが、台風の速度が極端に遅く、紀伊半島が豪雨となって災害が頻発し、例会当日は四国・中国に上陸しそうだと言う情報であった。しかし、台風の影響は大きく関東甲信にまで豪雨をもたらしたため、交通機関への影響が心配されたせいか、残念ながら、当日の出席者はいつもより少なく、30名を切る状態であった。しかし、加藤先生の「ドン・ジョバンニ」のお話が面白く、特に見慣れない新しい演出のものが目新しかったりして、楽しい例会となっていた。
例会終了後、有志一同ビールで乾杯後、加藤先生を中心に、先生を囲んで、ワインを飲みながら、楽しい賑やかな懇談会となっていた。今回は、どうやら「ドン・ジョバンニ」の話ばかりでなく、「バッハ」のお話や、「最新の海外・国内のオペラ事情」などの 話など、様々な話題が飛び交っており、先生も合わせて下さったので、前回に引き続き、最近にない盛り上がりを見せていた。
なお、今回の例会記録は、次の季刊「モーツァルテイアン」第79号(12月1日発行)に、先生のレジメなどを生かす形で、掲載する予定になっています。 (文責、倉島)
第307回 モーツァルティアン・フェライン例会 2011年9月3日
事務局レター【第182号】/2011年9月
【編集者】澤田義博/富田昌孝/宮崎宇史/古田佳子 bxp00423*yahoo.co.jp (スパムメールが増えてきましたのでリンクを外しました。お手数ですが*を@に替えて送信願います)
●9月例会(第307回)のお知らせ
映像で見比べる《ドン・ジョヴァンニ》の魅力 お話:加藤浩子氏(音楽評論家)
日時:2011年9月3日(土)午後2時
会場:お茶の水「クリスチャンセンター」(JR「お茶の水」下車・徒歩3分)
例会費:¥2500(会員・一般共)
――――― 講師の加藤先生からのメッセージ
《ドン・ジョヴァンニ》は、モーツァルのオペラのファンはもとより、オペラにさほどなじみのない方にも親しみやすい作品ではないでしょうか。とかく筋書きの入り組んでいるものの多い18世紀のオペラにしては、めりはりのあるわかりやすい物語ですし、登場人物も多彩で、興味がつきないからです。そして音楽は、モーツァルト・オペラのなかでいちばん劇的で、変化に富んでいるといえましょう。
けれど一方で《ドン・ジョヴァンニ》は、さまざまな解釈ができるオペラでもあります。タイトルロールのドン・ジョヴァンニを除けば、登場人物はみな、ひとつの感情では割り切れない葛藤を抱えていますし。その心情も、現代の私たちにも訴えかけてくる普遍的なものを内包しています。ドン・ジョヴァンニをめぐる3人の女性たちに関しては、とくにそのようなことが当てはまります。だからこそ舞台では、歌唱の面でも演出の面でも、ありとあらゆる試みがなされるのです。
今回の講演では、《ドン・ジョヴァンニ》の魅力を、各種の映像を比較しながらご紹介いたします。音楽の面では、20世紀半ば以降、古楽ブームの浸透とともに演奏スタイルは大きく変わりました。古楽による解釈には賛否両論がありますが、この潮流が新鮮な息吹を吹き込んでいることは間違いありません。
演出家にとって《ドン・ジョヴァンニ》は、おそらくもっともやりがいのあるオペラのひとつでしょう。多面性を持つ登場人物や、どの時代に置き換えても違和感のない物語は、せりふの行間への想像力をたくましくしてくれます。もちろん行き過ぎもありますが、はっとするような発見に満ちた舞台も少なくありません。
知れば知るほど奥が深い《ドン・ジョヴァンニ》。その魅力を、いろいろな舞台映像を通して改めて感じていただければと思っています。
例会後は恒例の懇親会へのご参加をお待ちしております。 会場:「デリ・フランス」お茶の水店/03(5283)3051
●今後の例会のご案内(会場記載のないものはお茶の水クリスチャンセンターです)
10月 1日 真部淳氏(本会会員)
11月19日 若松茂生氏(本会名誉会長)
12月17日 下山静香氏(ピアニスト) ※会場:かん芸館(荻窪)
●お知らせ
◆今回の講演録は礒山先生がご自身で執筆してくださいました。この場を借りて、改めて感謝申し上げたいと思います。 なお講演録の全文は九月初旬には会員の皆様のお手元に届く、季刊「モーツァルティアン」をご参照下さい。どうぞお楽しみに!
◆フェライン理事、委員の改選について
今年11月の総会で新理事、新委員を決定致します。 ご希望される方々は澤田会長、石津、倉島、川口各副会長までご連絡下さい。
◆2012年1月新年会について
今回の新年会は、従来通り、演奏及び講演を主として行う予定ですが、出演者の選考基準は新たに次のように定めました。
・新入会員を優先する
・例会への出席率の良い方々を優先する。 以上(S)
●7月例会の報告(第306回/7月16日)
《魔笛》の価値観 お話:礒山雅氏(国立音楽大学教授)
7月16日に、表記のタイトルで講演をさせていただいた。その要旨をご紹介しながら、雑感を述べたいと思う。
《魔笛》は、誰にでも親しみやすくわかりやすいオペラである。だが、あらためてよく考えてみると、わからないことが多いオペラでもある。3人の童子は何者か?神殿になぜ奴隷がいるのか?夜の女王とザラストロはなぜ対立しているのか?ザラストロは本当に人格者なのか?などなど、ごく基本的なところで首をひねってしまうのが、このオペラである。
その謎を、どのように解いていったらいいだろうか。方法は2つある。1つは、台本を読みなおして精査し、音楽と突き合わせながら、いわば作品内解釈を洗練してゆくやり方。もう1つは、フリーメーソンやら、シカネーダー一座やら、素材とされている民話やらを調べ、いわば外側から、理解のヒントを得てゆくやり方である。
両者は補いあうものであり、おそらく前者をきちんと行いながら、後者からの情報を幅広く加えていくのが、理想ではないかと思う。私は2010年に大学の講義で《魔笛》の作品研究を行い、そのさいに台本と楽譜を詳しく見直して、ノートを作った。その中にある所見をご紹介するのが、この講演の趣旨であった。
《魔笛》の内容についての理解は、CDに添付される翻訳台本や、公演の字幕を通じて作られることが多いと思う。注意を要するのは、実演やCDでは台詞に対するカットがよく行われ、背景を説明する情報がしばしば省略されてしまうことである。「作品を論ずる」ためには台本の全体を知ることが必要であり、それを原語で読むことで、訳者の理解にひきずられることを避けることができる。《魔笛》の台本は大きく意訳されることが多いだけに、ドイツ語でどう書かれているかを知ることも、正確な理解には欠かすことができない。
当日は、場面ごとに私の気づいたこと、心に止めておく方がよいことを、箇条書きのレジュメをもとに、進行順に説明した。そのすべてをここで再現することはできないので、重要と思われるいくつかのテーマに再構成してご紹介させていただこう。(この続きは季刊「モーツァルティアン」9月号をご参照下さい)
●情報コーナー
コンサート情報 ★こちらからどうぞ(M)
CD情報(外盤価格はHMVの一般価格) ★こちらからどうぞ(T)
●例会・懇親会 写真コーナー
例会終了後、有志一同ビールで乾杯後、磯山先生を中心に、先生を囲んだ楽しい賑やかな懇談会が開始されました。今回は、どうやら「魔笛」の話に限らず、「バッハ」や「ベートーヴェン」の話など、様々な話題が飛び交っていましたが、最近にない盛り上がりを見せておりました。後半には、写真で見られるとおり、先生が席を立って一人づつ、皆さんにワインを注いで下さるなど、大変なサービスをして頂き、一同、感激致しました。その様子をご覧いただければ、カメラマンの苦労は、吹っ飛んでしまうと思います。
第306回 モーツァルティアン・フェライン例会 2011年7月16日
事務局レター【第181号】/2011年7月
【編集者】石津勝男/澤田義博/富田昌孝/宮崎宇史/古田佳子 bxp00423*yahoo.co.jp (スパムメールが増えてきましたのでリンクを外しました。お手数ですが*を@に替えて送信願います)
●7月例会(第306回)のお知らせ
《魔笛》の価値観 お話:礒山雅氏(国立音楽大学教授)
日時:2011年7月16日(土)午後3時(開場:2時30分)
← 開始時間をご確認ください
会場:お茶の水「クリスチャンセンター」(JR「お茶の水」下車・徒歩3分)
例会費:¥2500(会員・一般共)
――――― 講師の礒山先生からのメッセージ
音楽は誰にも親しめるのに、さてその作品が何を言おうとしているのか、と考えると、答えは簡単には見つからない――《魔笛》は、そんな作品のひとつです。多くの教訓を含む《魔笛》のメッセージを正しく解読するためには、テキストと音楽の、綿密な研究が欠かせません。神殿で崇拝される「神」と「人間」は、いかなる関係にあるのか。女王の「夜」とザラストロの「昼」は、単に対立しているだけなのか。タミーノの「成長」はストーリーの流れとどうかかわっているのか。三人の童子はいかなる存在と見なすべきか。パパゲーノは結局のところいかなる位置づけを得ているのか。神殿の儀式はどこまで肯定的に提示されているのか。モノスタトスがなぜ神殿で働いているのか。などなど、容易には答えの見つからない問題が、《魔笛》にはたくさん蔵されています。これらの問題を作品に即して考えながら、《魔笛》に関する私の最近の考えをまとめてみたいと思います。
●今後の例会のご案内(会場記載のないものはお茶の水クリスチャンセンターです)
9月 3日 加藤浩子氏(音楽評論家)
10月 1日 真部淳氏(本会会員)
11月19日 若松茂生氏(本会名誉会長)
12月17日 下山静香氏(ピアニスト)
※8月は夏休みとなります。
●お知らせ
東日本大震災時の、政府と東京電力の信じがたい程お粗末な対応の為、我々は節電を迫られ、例えば、出かけてもエスカレーターは動かない事が多く、更に電車は間引き運転、又、ビルの廊下などもうす暗くなっています。そのためか、外出を控えていらっしゃる方も多く、当会の例会でも出席者の人数が減っています。また皆さん何となくフラストが溜まっているではないかと思います。クリスチャン・センターではその心配はありません。今回は、礒山先生の中身が濃く、深く掘り下げたご講演です。フラスト解消の為にも、是非ご出席下さい。(S)
●6月例会の報告(第305回/6月4日)
久元祐子レクチュアー・コンサート/学習するモーツァルト ヨハン・クリスティアン・バッハからの影響 ピアノとお話:久元祐子氏
本日の会場は久しぶりに吉祥寺の「ラ・フォルテ」、新緑の井の頭公園に隣接する恵まれた環境に建っていて、一階がカフェ、地下がコンサートホールになっている。久元祐子先生のレクチュア・コンサートは年々評判になり今回も熱心な会員の方々やインターネットで申込まれた方々の集うなか開催された。
はじめに―――モーツァルトは確かに天才型であったが、同時に人一倍努力せずにはいられない面もあった。有名な天才画家といえどもはじめは模倣から入った人もいるようにモーツァルトも先輩のJ・ハイドンやJ・C・バッハなどから学び吸収していく過程があった。
ミュンヘン・ソナタ―――18曲あるモーツァルトのピアノ・ソナタの最初のグループ6曲(K279~K284)はオペラ〈偽りの女庭師〉の作曲、上演のために訪れていたミュンヘンで作曲された。これらのソナタからは同時代の作曲家、J・ハイドンとJ・C・バッハの作品を丹念に研究していたことが窺える。とりわけモーツァルトが親近感を抱き、熱心に学習したのはJ・C・バッハの作品で、手本にしたのは1768年に出版された作品5の6曲からなる曲集であった。
モーツァルト/ピアノ・ソナタ変ホ長調K282―――(筆者注:お話の前にこのK282の演奏があった。優雅でしみじみとした雰囲気を持っていて、大胆に変化し、美しく移ろっていく。モーツァルトは、こまやかな強弱記号を使って、光と陰が織りなすコントラストを表現している。これはピアノフォルテの出現によって可能になってきたそうです)
ピアノフォルテとの出会い―――1750年代、中南部ドイツは、新しい鍵盤楽器であるピアノフォルテが最も早く制作され、使われ始めた地域だったが、ピアノフォルテにおけるもうひとつの先進地がロンドンだった。1760年前後にG・ジルバーマンの弟子とも伝えられるJ・ツンペが小型のピアノフォルテを考案し大変な評判をよぶことになった。彼の楽器はスクエア・ピアノと呼ばれかなり微妙なニュアンスを出すことが出来、折から家庭音楽が普及していたロンドンの貴族、上流階級の間で普及した。ズンペ(イギリスでの呼称)の楽器を想定してピアノフォルテのための作品を作曲し、演奏した作曲家がJ・C・バッハであり、モーツァルトが参考にしたOP.5のソナタこそ、ピアノフォルテを想定してつくられた最も早い時期の曲集だった。
J・C・バッハ/ピアノ・ソナタト長調OP5-3とモーツァルト/ピアノ・ソナタト長調K283―――モーツァルトはJ・C・バッハから旋律の案出について似たような感性を感じ取っていたのではないか。モーツァルトのK283、J・C・バッハのOP5-3は、同じト長調の第一楽章、第一主題をスコアでみると表面的には違っているように見える。しかしOP5-3の16分音符のいわば“刺繍”を取り除いてみると、ほぼ同じ旋律であることがわかる。その流れはしなやかで、柔らかく、空間的な広がりが感じられる。
J・C・バッハ/ピアノ・ソナタニ長調OP5-2とモーツァルト/ピアノ・ソナタニ長調K284「デュルニッツ」について―――それぞれの第一楽章を比べてみる。まず冒頭だが、K284ではニ長調の主和音がやや長く鳴らされ、ユニゾンで力強いテーマに入っていく。バッハでは、やはり主和音の和音が三回続いて鳴らされ、いかにもバッハらしい典雅で穏やかな旋律が後に続く。第一主題から推移部に入ると、どちらもまったく同じトレモロの伴奏が左手に現れ、非常に似た雰囲気で音楽は流れていく。第二主題は一見すると似てはいないが、その歌うような性格は共通している。この様にそれぞれの部品の調、リズム、雰囲気、音型が共通していて、部品をつなぐ接続部が同じであれば、部品を取り替えても、音楽としては成立するのである。
このようにとても似ているこの二曲だが弾いていても聴いていても何かが違っている。J・C・バッハの音楽は優雅で上品だ。ロココ調の調度品に飾られ、香水がほのかに漂う部屋の中で、音楽はひたすら美しく流れていく。一方モーツァルトは、似た香りに満たされた空間の内部にとどまってはいない。モーツァルトの音楽は、空間的制約から離れて自由に飛翔する。軽やかであるとともに力強く、推進力がある。
後年、モーツァルトはマンハイム・パリ旅行でシュタインの自慢のピアノフォルテに触れ、試し弾きをしているが、弾いたのはこの〈デュルニッツ・ソナタ〉だった。このときモーツァルトは、シュタインの楽器で〈デュルニッツ・ソナタ〉を弾くと、とても音が響いた、と報告している。このソナタはJ・C・バッハの作品と比べても、モーツァルト自身のほかの五曲のソナタに比べても、分厚い書法で書かれ、力強い推進力があるダイナミックな音楽だ。このような特徴のある作品を、現代のフル・コンサート・グランドピアノの楽器特性を活かし、ダイナミックに弾くことも可能であり、それはそれでこの作品の一面を表現している様に思う。
以上、昨年に続いて今回も久元祐子先生のレクチュアコンサートの内容を記録させて頂きました。久元先生の魅力的なお話と知的で優雅なピアノ演奏、特に〈デュルニッツ・ソナタ〉から、モーツァルトの才能のきらめきを改めて感じることが出来て会員一同、深く感謝を申し上げます。また次回を楽しみにしたいと思います。(文責:石津)
第305回 モーツァルティアン・フェライン例会 2011年6月4日
事務局レター【第180号】/2011年6月
【編集者】澤田 義博/富田 昌孝/宮崎 宇史/古田 佳子 bxp00423*yahoo.co.jp (スパムメールが増えてきましたのでリンクを外しました。お手数ですが*を@に替えて送信願います)
●6月例会(第305回)のお知らせ
久元祐子レクチュアー・コンサート/学習するモーツァルト ヨハン・クリスティアン・バッハからの影響 ピアノとお話:久元祐子
日時:2011年6月4日(土)午後2時(開場:1時30分)
会場:吉祥寺「ラ・フォルテ」
【アクセス1】JR三鷹駅南口より徒歩10分。ジブリ行きバス5分。万助橋下車。バス停前。
【アクセス2】JR吉祥寺駅南口より徒歩12分。バス利用5分。丸井前③~⑧バス。万助橋下車。バス停前。
例会費:¥3500(会員・一般共)
♪♪ プログラム ♪♪
モーツァルト:ピアノ・ソナタ 変ホ長調 KV282(189g)
ヨハン・クリスティアン・バッハ:ピアノ・ソナタ ト長調 作品5の3
モーツァルト:ピアノ・ソナタ ト長調 KV283(189h)
ヨハン・クリスティアン・バッハ:ピアノ・ソナタ ニ長調 作品5の2
モーツァルト:ピアノ・ソナタ ニ長調 KV284「デュルニッツ」
久元先生からのメッセージ ――― ヨハン・クリスティアン・バッハのモーツァルトへの影響については、アインシュタインをはじめ古くから指摘されてきました。その影響が具体的に感じられる初期のソナタのグループを取り上げ、モーツァルトは、ヨハン・クリスティアン・バッハの何に魅力を感じたのか演奏者の視点から触れてみたいと思います。
●今後の例会のご案内(会場記載のないものはお茶の水クリスチャンセンターです)
7月16日(土) 礒山雅氏(国立音楽大学教授/15時開演)
※7月は開始時間にご注意ください。8月は夏休みとなります。
以下、9月・加藤浩子氏(音楽評論家)、10月・真部淳氏(本会会員)、11月・若松茂生氏(本会名誉会長)の予定です。
●5月例会の報告(第304回/5月14日)
世界的巨匠 ジェラール・プーレの世界 ジェラール・プーレ(ヴァイオリン)/川島余里(ピアノ)
巨匠プーレと川島さんのコンビのフェラインでの演奏は今回で三回目となる。毎回、演奏の内容が濃くなっていくように感じたのは私だけだろうか?あの熱気、あの共感、あの拍手とブラヴォーの声。これこそ生の演奏の醍醐味である。 演奏者と聴衆の熱い反応が、相互作用を引き起こし、感動を更に高めて行く。そんなリサイタルだった。 今回は初めて銀座十字屋との共催となり、共催も成功裏に終わったと思われる。 銀座十字屋の中村社長も大いに喜んでおられたようである。
♪モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ イ長調 K.305
この曲がパリで作曲されたと書いている解説書が未だに見受けられるが、実はパリに出発する直前の1778年初めにマンハイムで作曲されている。イ長調の曲は特に弦で演奏されると輝かしく聞こえるが、この曲も例外ではなく輝かしい。また、陽気で、かつフレッシュなデュエットである。
第1楽章はギャラントなスタイルで書かれているが、展開部ではモーツァルトはその天才ぶりを遺憾なく発揮している。ジーグ風なソナタ楽章である。第2楽章は主題と六つの変奏であるが、この形式は初期のK.31のヴァイオリン・ソナタ以来初めてである。特に第5変奏はトルコ風である。この曲の演奏当初はやや硬さが感じられたが、そのうち二人とも乗って来て、プーレさんは最初から、とても気合が入っているように感じられた。
♪モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ ヘ長調 K.376
ザルツブルクの大司教コロレドとの決別の直後にウィーンで1781年に作曲されている。この年からモーツァルトはウィーンに定住する事となる。第1楽章、第2楽章はとてもハイドン的である。第1楽章は活気とエネルギーに満ちている。第2楽章は3部形式で、極めて繊細なロマンス風のアンダンテである。第3楽章になると、モーツァルトさが遺憾なく発揮され、優雅なフランス的なロンドになっている。オペラ「魔笛」のパパゲーノが今にも顔を出しそうな雰囲気を感じさせる。第3楽章はプーレさんの腕の見せ場で、実にフランス的な演奏だった。
♪フランク:ヴァイオリン・ソナタイ長調
セザール・フランクは、ベルギーのリエージュ生まれ。1872年にパリ音楽院の教授に迎えられ、パリで活躍した。1871年にはサン=サーンス、フォーレらと共にフランス国民音楽協会の設立に参加し、19世紀後半のロマン派・フランス音楽の最高峰の1人と言っても過言ではない。ヴァイオリン・ソナタイ長調 は晩年に近い1885年頃から書かれ、1886年にイザイに捧げられた。ベルギーの誇る若きヴァイオリニスト、ウジェーヌ・イザイと大先輩のフランクは互いに尊敬しあう同国人であった。イザイの結婚の祝いに、まだ手稿譜の新作のソナタを贈った。ソナタは4楽章から構成され、循環形式により、どの楽章にも巧みに同一の主題が現れる。情熱に満ち溢れる不朽の名作である。
この曲の演奏は最高の出来栄えだった。私も古今東西、現在に至るまで聴いた中で、ベストの演奏だと感じられた。この曲の時会場の雰囲気は最高潮に達したと思われる。大変な熱気であった。生演奏が生み出す一種のマジックである。拍手とブラヴォーの声は止まらず、アンコールとなった。アンコール曲はベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第6番の第2楽章とファリャのスペイン舞曲だった。(文責:沢田義博)
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